「白馬の王子様」を待つ女|12星座連載小説#10~天秤座1話~

文・脇田尚揮 — 2017.2.3
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第10話 ~天秤座-1~


前回までのお話はコチラ

いつも美しいものに囲まれて平穏に暮らしたいの―――

私は佐々木恭子。27歳だけどまだ独身。どこかに素敵な男性がいないかしら、と目下探し中ってところ。

この間参加した、会員制の『ロイヤル・ヴェイル』良かったなぁ。

お医者さんや公認会計士なんかも来ていて、男の質はなかなか良かった! ただね~、年齢と顔がイマイチだったのが残念……。仕方ないわよね、モテるために一生懸命頑張ってきた“モテない男たち”が集まるんだもの。
でもあの感じだと次回も、高収入なハイレベルな殿方と出会えそう。数をこなせば、私の王子サマに出逢えるはずよ。

「……さん。……木さん。佐々木さん!」

『あっ! ヤバ! 主任の来栖さんだ』

「佐々木さん、さっきから何をボーッとしてるんですか! お客様が来てるじゃないの! 早く接客して下さい!」

はぁ、うるさいなぁ。これだからオールド・ミスは。
女の人がいくら仕事を頑張ったところで、どのみち限界があるし、私は素敵な旦那サマ候補を見つけたら即結婚して辞めちゃうんだから。

「すみませ~ん」

お客様に声を掛けられ、接客にまわる。ひとまず、やることやっちゃいましょうかね! 働かないと稼げないからオシャレもできないし、今の仕事もそんなに嫌いじゃないしね。

私は仕事はソツなくこなす方。このアパレルの仕事も成績は悪くない。
実は昔、夜の仕事もちょっとカジったんだけど、そこでも売上は上クラスだったものね。

トップになると何かと面倒だし、底辺になるのは私のプライドが許さない。今くらいの立ち位置がちょうど良いの。大好きなお洋服に囲まれて、流行もいち早くキャッチできて、ま、言うことないかなっ。

『お客様、これなんてとてもお似合いですよ~』

お得意のリップサービスで、今日も仕事に勤しむ私。う~ん恭子ちゃん、偉いっ!

あ、そういえば、こないだの『ヴェイル』に来ていた、あの素敵な女の人なんて言ったかなぁ。

とっても可愛い下着ブランドの女社長さん。スラッとしてキリっとしていて、同じ女として好感度大かも。あれは一流の女ね。ただ……、男運はなさそうだけど。

確か名刺を貰ったはず……今日のお昼休憩に行ってみようかなぁ。私はいろいろ考え、ウキウキしながらお昼になるのを待った。

スタッフのみんながバタバタしているのを横目に。……お昼の時間だ!

『すみませ~ん、お昼失礼します!』

「あっ、ちょっと、佐々木さん。棚卸しがまだ終わってないの。手伝ってもらえたらありがたいんだけど……」

鈴森さんだ。仕事熱心でえらい人。でも、ゴメンなさい! 人生はタイミングが命なの。私の運命の出会いはこの瞬間しかないのよ。許してね。

『鈴森さん、ゴメンなさい。お昼にちょっと済ませておかないといけないことがあって……帰ってきたらお手伝いしますので』

私は、そそくさとお店を出た。

確か……そうそう、中目黒にある『アリアンロッド』ね。駅近だから助かるわ。パッと行って、早めに戻んなくちゃ来栖さんにまた怒られちゃう。

5分くらい歩いたところに、そのお店はあった。

シックなデザインの中にゴールドの文字が輝いてる。少し強い印象だけど、とっても素敵! あの、奥にいるのが社長の黒木さんね。う~ん、やっぱり素敵。長身にあのロングウェーブが映えるわ。

私は深呼吸をして、中に入った。

「いらっしゃいませ~」

メガネの女性には目もくれず、社長まで一直線!

『黒木社長、ご機嫌いかがですか? 先日の社交クラブは……』

「あー!佐々木さん!こんにちは~!」

名前を覚えていてくれた! でも、私の話を途中で遮った?? ……う~ん、言っちゃまずい内容だったかな。注意しなくちゃ。

「佐々木さん、今日はどんな下着をお求めなの?」

ほっ。嫌われてなくてよかった。

『黒木社長、私、この間、社長に見せて頂いたガードルがいいなって思って』

あのガードル、素敵だったもの! 社長ったら、わざわざ私にチラッと見せてくれて。

「あ、ああ……、あれね。ちょっと待ってね」

憧れの黒木社長が、私のためにチョイスしてくださってる! 感激!

「こちらですよね?」

『はい! でも、う~ん、社長が履いていたボルドーカラーが好きなんですけどぉ』

そうそう、あの大人っぽい色が良かったんだぁ。私も黒木社長みたいになれるかなって。

「あっはい! こちらね。」

『あっ! これです! これ! 有難うございます! 社長とお揃いのを身につけたかったんですよ~』

さすが社長、わかってくれてる!

「あ、ありがとうね……!」

嬉しくてつい……、社長の手を握っちゃった。

『社長、ありがとうございました~! また次回もよろしくお願いします!』

とっても素敵な黒木社長。また来よーっと。

ランチタイムがだいぶ前に終わっていることも、私は気にならなかった。

次回、“第11話 「女同士のやりにくさ、そして過去の自分との邂逅」”は2月3日(金)配信予定。


【これまでのお話一覧はコチラ♡】

【今回の主役】
佐々木恭子 天秤座27歳 アパレル店員
センスがよく整った容姿の女性。男に困ったことがなく、広く浅く男性と付き合う、いわゆる“リア充”である。将来の夢は玉の輿に乗ることで、毎週タワーマンションで催される会員制パーティー『ロイヤル・ヴェイル』に参加している。仕事仲間からは陰口を叩かれているようである。

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