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30歳の「ラスト・チャンス」|12星座連載小説#140~乙女座 11話~

文・脇田尚揮 — 2017.8.16
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第140話 ~乙女座-11話~


前回までのお話はコチラ

重たい足取りで自宅へと戻る。ドアを閉めてカチャリと鍵をかける。

統制の取れていた“自分の世界”が、少しずつ壊れていく。
だけど、頭では理解できても、実際にそれができるかと言えば別問題。

『もしも、私がもう少し柔軟だったら……』

“真司さんと上手くいったかも”とは、声に出せなかった。

声にすると、一気に何かが溢れ出してきそうで怖かったから―――

彼は、いつも言っていた。

「仕事、忙しいだろうから合わせるよ」
「いつでも頼ってね」
「たまには俺に甘えて」

それなのに、自分ひとりで勝手に背負い込んで、上手くやろうとして……。

―――大切な人を傷つけ、捨てた。

身体が重たい……。考えががまとまらないと、こうも怠いのか。弱いな、私は……。

メイクも落とさずシャワーも浴びないまま、ベッドに横になる。

いつもなら絶対にしないこと。“マイ・ルール”を破る。

これまで私は、何を大切にしてきたんだろう。

形式? 表層? 自分の弱い心……?

そう、私は強くなんてない。

弱い自分を守るために、先に起こるであろう不確定要素を全て排除してきた。

……そういうことだったんだ。

本当に強いのは、真司さんや三浦さん。自分のことだけでも大変なのに、人に合わせて融通を利かせて……優しい人。

私は自分のことで精一杯。だから冷たく切り捨てた。

最低だ……私。ごめんなさい、真司さん。

失ったものの大きさと、自分の不甲斐なさを呪いながら、私は浅い眠りに落ちた―――

良い子で在りたかった。良い子じゃないと、嫌われるから。

お母さん、私、良い子だよ。だから独りにしないで。

もっと構って……

そうして締まる扉。

『……ハッ!』

―――夢

小さい頃の夢を見た。

父は大学で教鞭をとり、母は女医として働く。姉はとても優秀で、いつも成績はトップだった。

でも、私は……

薬学部に落ちた私に、母は心底失望していたようだった。私は期待に応えられなかった……悪い子。

だから、一生懸命頑張った。看護学校に通いながら、受験勉強をした。

―――薬学部に入りなおすために。

恋人もつくらず、誰とも馴れ合わない毎日。看護学校にいるのに、隠れるように大学受験のテキストを開く“仮面浪人”生活。

でも、それでも働き始めて、現場に出るようになって、やり甲斐を感じてきたことは確かだ。

「人の役に立ちたい」

この気持ちだけは、確かだった。

そして、私の願いは叶った―――

でも、それって正しかったの?

目的のために殻に閉じこもって、私を愛してくれる人を散々傷つけてきた。

これじゃあ、まるで……

お母さんと一緒じゃない―――

今日も出勤はゆっくり。午後3時からだ。まだ、11時……起き上がりたくない。

ベッドに横たわったまま、スマホの電源を入れる。きっともう、真司さんから連絡はないのだろう。このまま、本当に終わってしまうんだ……。

スマホの画面が淡く光る。

LINE2件か……。

タップすると……そこには―――

真司さん!? どうして……?

急いで本文を確認する。

「お疲れ様。うちにそっちの自宅の合鍵を忘れていたままだったよ」
「送っても良いけど……どうしたらいい?」

―――これは……!

これは私にとって、もう一度やり直す本当に“最後のチャンス”になるかもしれない……!

どうしよう……

どうすれば良い?

会うこと……直接会って話をする。でも、何を?

私は彼を振っているのよ……、何を今更。

“完璧にやろうとしたら、家庭か仕事か、あるいは自分のどこかが壊れちゃう。だから、どれも不完全にバランスをとりながらやっていくの……”

三浦さんの言葉が思い出される。

筋を通さなくて良い。自分の今の気持ちを正直にぶつけるだけでも良い。

あとは、結果を受け止めるだけ。

「こんにちは。わざわざ連絡ありがとう。送ってもらうのは悪いし、今から支度して13時にそっちに行ってもいい?」

これが、今の私なりの“最適解”。

真司さんが私の名前を書いてない以上、私も真司さんの名前を出さず、鍵を直接取りに行く理由付けもできた。そして、鍵を取りに行くとも明言していない。

……って、こういうところが、ダメなのよね。素直に、“会いたい”って言えたら良いのにね。小賢しい自分に辟易する。

LINEはすぐに既読になり、

「分かった。待ってるよ」

とだけ返信が帰ってきた。まるで待ってくれていたかのように。

これで、準備はできた。

私にとっての“ラスト・チャンス”。

真司さんとやり直すことだけじゃない。自分の人生……生き方に関しても、変われる最後のチャンスなんだ……。

―――私はバスに乗っていた。

いつも通りの服装。メイクも気合を入れず。

全力で“さりげなさ”を演出した装い。

緊張する。こんなふうに緊張したのは、いつぶりだろう。

学生時代? 病棟で重症患者を看たとき以来? いや違う、この緊張の感覚は……、

恋をした時以来―――

バス停で降りて、一歩一歩真司さんのマンションへと向かう。

何度も来たはずの道なのに、どうしてこんなに新鮮なんだろう。これまで気がつかなかった植え込みや、小さい公園に気づく。

彼に会ったら言おう。

昨日一日のこと
これまでのこと
これからのことと……

そして、“自分の気持ち”。

エントランスに到着する。

一瞬、躊躇したけれど、心を決めて彼の部屋番号を押した。


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【今回の主役】
鈴木沙耶 乙女座30歳 看護師
眼鏡の似合うクールビューティーだが、理想が高くいわゆる完璧主義者なところが恋を遠ざける。困っている人を助けたいという思いから、看護師として8年間働いている。しかし、理想と現実のギャップに悩んでおり、さらに自分を高めるために薬学部に行こうと考えている。結婚願望はあるのだが、仕事や夢が原因で彼(辻真司)とうまくいかない。


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