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「プライベートと仕事」の両立|12星座連載小説#139~乙女座 10話~

文・脇田尚揮 — 2017.8.15
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第139話 ~乙女座-10話~


前回までのお話はコチラ

「鈴木さん、お疲れ様。305号室の高村のおばあちゃん、大変だったでしょう」

先輩ナースの三浦さんが、心配そうにこちらを見ている。

『あ、いえ……これも看護師の仕事ですから』

「そっか。鈴木さんは、強いのね」

“強い”か―――

「でも、今日の鈴木さん、顔が曇っているように見えるけど……何かあった?」

『えっ……』

……真司さんのこと。
自分では割り切ったつもりだけど……、やっぱり割り切れていないんだろうなぁ、私。
でも、後はもう時間が解決してくれるのを待つしかない。

『ちょっと、色々ありまして……』

「色々あるわよね、人間だもの……。この仕事についてるとね、プライベートでの人間関係が疎かになっちゃうからなぁ」

少し溜め息混じりに三浦さんが呟く。独り言とも取れるような、その口調の裏にはどんな想いがあるんだろう。

前から疑問に思っていたことを聞くなら、今がチャンスかも……。

『あの……三浦さん』

「ん?」

『三浦さんはご結婚しているのに、この救急病棟で働いていらっしゃるじゃないですか。どうやって両立させているのかなぁって……』

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「両立……ねぇ……」

苦笑しながら三浦さんが、イスをこちらへと寄せてきた。

「両立なんてできてないのよ……私。家じゃあケンカも絶えなくてね。ダンナはいつも今の仕事を辞めろ! って言うんだよね……」

―――そうなんだ。

「でね。ダンナ、空手の有段者だから、ケンカになるとモノを壊しちゃうの。この間も、壁を思い切り殴って穴を空けちゃって大変だったわよ……うちのチビは怖がって泣き出すしさ」

『そうだったんですか……』

「そうよ、救急病棟で働きながら、家事も育児もダンナの相手も完璧にするなんて、そんなスーパーウーマンみたいなこと、出来るわけないじゃない」

『そう……ですよね……』

「そうそう。だけどね……」

少し三浦さんが、優しい顔になる。

「それでも、家族の絆があるから“ガンバロウ”って気持ちになれたりするものなのよ。矛盾しているけど……家族の存在が仕事の、そして、仕事が家族生活の活力になってるって思うの」

意外な言葉だった。私にはない発想。

「あはは! 驚いたって顔、してるわね」

『え、あっすいません』

「いやいや、気にしないで。鈴木さんは完璧主義じゃない? 見ていていつも思っていたわ。でも、私にはそれはムリ。どこかで必ず歪みが出てきちゃうもの」

『歪み……』

「そ。完璧にやろうとしたら、家庭か仕事か、あるいは自分のどこかが壊れちゃう。だから、どれも不完全にバランスをとりながらやっていくの……あっ! また高井さんだわ……ちょっと行ってくるね!」

そう言って、三浦さんは廊下を駆けて行った。

―――衝撃だった。

何事も計画立てて、それを遂行していく。100%とは言わずとも、ほぼ100%に近づけるように努力する。

それが私の信念だった。

それなのに、三浦さんは“不完全”であることが、仕事とプライベートを両立させるコツだと言う。

何だか、これまで自分が信じていたものが崩れていくような感覚。

その日、私の頭の中はショートした―――

夜勤が終わり、更衣室で私服に着替える。これから帰宅だ。

今日はミスをして、ドクターから怒られてしまった。何だか、一日中ずっと心がモヤモヤしていた。

少しボヤけた頭の中に喝を入れるべく、冷たいミネラルウォーターで喉を潤す。

―――モヤモヤの原因は、何?

地下鉄に向かい歩き始める。明け方4時は、まだ真っ暗。街中が寝静まっている。

『夜明け前か……』

私は“もしも”という言葉が好きじゃない。
だって、今起きて、目に見えることが“全て”だから。
“仮のこと”を考えても無意味だし、無価値。

でも―――

今、少しその“もしも”について考えている自分がいる。

もし、もしも……
私が完璧主義でなければ……

仕事をしながら、学校に通いつつ……恋もできるの……?

そういえば―――

私の父は、大学院に通いながら不動産会社で働いて……そして、母を射止めたらしい。

その話を聞いたとき、私は小説を読んでいるような気分だった。別次元の話過ぎて……。

でも、こう言っていた。

「職場に恵まれた。上司が理解ある人だったから、相談して大学に通えるような勤務形態にしてもらえたんだよ」と。

そして照れながら、

「お陰で、大学院で知り合った“お母さん”と結婚できたんだ」って、頭を掻きながら語ってくれたっけ。

父は私とは正反対の性格で、どこかいい加減で抜けているところがある。でも、何ていうか……いつも周囲の人から助けられていると思う。

これまで、私は父のことを“運のいい人”だとしか思っていなかった。

でも、そうじゃないんだ。

周りの人達に協力してもらえる環境を作れるか、会社や上司に交渉できるか、日頃から周囲の人と信頼関係を築けるか、自分のワガママのために融通を利かせてもらえるか。

こういった“交渉力”や“人の良さ”が、父のあらゆる“両立”を可能にしたのだ。そう気づいた。

自分ひとりで抱え込むことなく、誰かに頼ったり甘えたりしながら柔軟に生きる。

私にも、そんな器用なことができるだろうか。

東の空から、太陽が昇ってきた。

街が目覚め始めたようだ―――


【これまでのお話一覧はコチラ♡】

【今回の主役】
鈴木沙耶 乙女座30歳 看護師
眼鏡の似合うクールビューティーだが、理想が高くいわゆる完璧主義者なところが恋を遠ざける。困っている人を助けたいという思いから、看護師として8年間働いている。しかし、理想と現実のギャップに悩んでおり、さらに自分を高めるために薬学部に行こうと考えている。結婚願望はあるのだが、仕事や夢が原因で彼(辻真司)とうまくいかない。


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