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「I desire.」~私は欲する。~|12星座連載小説#132~蠍座 最終話~

文・脇田尚揮 — 2017.8.3
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第132話 ~蠍座-最終話~


前回までのお話はコチラ

―――半年後

ブロロロロ……。音を立てて、トラクターが私の横を通り過ぎる。

乗っていたおじさんが「よぅ」と声をかけてくれ、私も『どうも』と返す。

―――照りつける太陽が、心地いい。

抱えていた堆肥を地面に置き、軍手を外して額の汗を拭う。見渡す限り、茶色と緑の2色だけ。畑とその奥にそびえる山々が目に優しい。

「姉ちゃん、お昼じゃよ!」

もうそんな時間か。

『はーい! 今行くけんね!』

白米のおにぎりに、きゅうりの漬物、そして麦茶。これが一番美味しいんだ。

「姉ちゃんが、宮崎に帰ってきたときは、びっくりしたとよ。今は、こんげして畑仕事を手伝ってもらっちょるっちゃけんどよ……仕事、上手くいっちょったっちゃろ? 良いとね?」

『うん……良いと。姉ちゃん、やっぱここが一番好きやと』

今、私は実家の宮崎で、弟の農家の手伝いをしている。今となっては銀座や、夜のネオンが懐かしい。

そう決心したのは、“先生の言葉”がきっかけだった―――。

私は、女々しくもあの日、自分のお店“だった”場所に立っていた。

店の前には、大輪の花々が飾られていて、そこには「倫子ママ オープンおめでとう!」の文字がいくつも書かれていた。

頭では分かっていたけど、実際こうして目の当たりにするとキツイものがある。

―――もう私は、“銀座のママ”じゃないんだ。

人目を避けるように、私はその場から立ち去った。

“銀座のママ”とは何なのだろう。私はこれまで“私”として仕事をしてきたのではなかったのか……。

肩書きがなくなった瞬間から、こうして“顔のない女”になるなんて、なんて惨めで滑稽なんだろう。

もはや“何者”でもなくなった私は、空虚な心のまま、フレイア先生の待つ新宿へと足を運んだ―――。

時刻は18時半ちょうど。待合室で少し待たされ、しばらくして個室へ通される。

今の私には、もう何もない。そして、今の私は、もう何者でもない。

でも、それはこれから“何でもできる”ということでもある。

“覚悟”は出来ている―――。

フレイア先生がやってきた。

「こんばんは。何だかスッキリしたお顔をされてますね……何かありました?」

『……ええ、色々と』

私はこの数日、自分に起きたこと全てを先生に話した。

「そう……大変でしたね。前回の鑑定で出た“力”のカードの意味、そして夢で見た“食べられる”ことの暗示を知りたいとのことですね」

『はい……』

「“力”……、“ストレングス”のカードは、女性が獅子を手懐けるというモチーフから、女性のメンタリティが男性を手懐けるという意味があります」

『ええ』

「でも、その他にも、心の成長、そして強い意志を持って前向きに進むことの大切さを示しているんですよ。ここを見て下さい」

“力”のカードの一点を先生が指差す。獅子を手懐ける女性の頭の上に“∞”のマークが描かれている。

「これ、このマークは無限の力を意味しているの」

『……無限の力』

思わず声が漏れた。

「今、須藤さんは全てを失ったかもしれません。“塔”のカードの暗示のように……。でも、それは“これ以上失うものはない”ということでもあるの。それってある意味、とても強くって、これから“何でもできる”ってことでもあるのよ」

―――先生の声が、心に染みる。

「そしてね、須藤さんが見た夢はね」

心臓がドクンする感覚。

あの夢……異形の化け物に四肢を切断されて、食いちぎられる夢。あんなおぞましい夢は初めてだ。何を意味するって言うのかしら……。

「夢占いでは、自分自身との決断や、過去との決別を意味するの」

その言葉を聞いて、私の心は固まった。

決断。

そう、私はこれまで決断を先送りにしていたのだ。“執着”という名の、甘い楔で自分を締め上げて。

―――そこからの私の行動は早かった。

弟に電話して、マンションを引き払って、チカだけを連れて宮崎に戻ったのだ。

そして、お母さんと10年ぶりに話をした。

夜の世界で生きていたこと。銀座のママとしてやってきたこと。会長とのこと。もう、何もないこと。

全てを打ち明けたのだ。

お母さんは、

「頑張ったっちゃね……ゆっくりせんね」

と言ってくれた。

これまでのわだかまりが一気に溶けたように、私たちは抱き合った。

いつだって、“母と子”に戻れるんだ―――

これ以上の安心感はない。かりそめのステータスなんて、もう要らない。

―――心からそう思えた。

今は、昼に畑仕事を手伝って、週に2回、お母さんが経営しているスナックに立っている。

蠍座の女の人生は、

“I desire.” ~私は欲する。~

不要なものなんて、一切いらない。一番欲しいものさえ手元にあれば、それで満足なの。

でも、しがらみがそれを許さなかった。

だけど、全てが壊れてなくなった今なら、心から分かる。

本当に大切なものの価値とその意味を。

嘘で塗り固められた世界からは、もう卒業しよう。心のまま、あるがままに自分の欲するものを求めていく人生。それって、なんて素敵なことなんだろう……。

今、私は本当に欲しいものを手に入れました―――

蠍座の女の人生 ~Fin~


【これまでのお話一覧はコチラ♡】

【今回の主役】
須藤由紀(絢芽) 蠍座30歳 クラブホステス
豊満な肉体を持つセクシーな女性。貧しい幼少期を経て、自分の身体一つを武器に若い頃から水商売の世界でトップを取り続けてきた。さまざまな男性と情事を重ねる日々の中で、自分の生き方に疑問を感じ、男と女の化かし合いに疲れている。このまま、夜の世界の女帝となるか、それとも……。


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