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「男の欲」を受け入れる女|12星座連載小説#130~蠍座 10話~

文・脇田尚揮 — 2017.8.1
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第130話 ~蠍座-10話~


前回までのお話はコチラ

暗い部屋の奥から、女の嗚咽のような声が漏れている。

―――遅かったか……。

一歩、一歩と歩みを進めていく中で、様々なことが頭をよぎる。

会長との食事。
初めてお店を持たせてもらった時のこと。
スイートルームで二人きりの夜。

楽しかったこと、嬉しかったことだって沢山ある。

私は、彼を癒せる“何者か”になりたかった。
おそらく私はこの後、“銀座のママ”ではなくなるだろう。

でも、もう“夜”へのこだわりはない。
“普通の女”に戻ってでも、彼に進言しなくては―――

覚悟を決めて、部屋のドアを開けた。

案の定の光景。

まるで虫のように縛り上げられた倫子が、男達数人に道具で嬲られている。苦痛に歪んだ顔には生気がなく、涙でメイクも崩れ、見るも無残な姿だ。

いつも強気だった倫子とは思えないくらいに弱く、か細い声で呻いている。

そして、その奥で眼を異様にギラつかせた老人が、耳まで裂けそうなくらい大きな口を開け笑っている。

『会長……!』

「ぐふふ……遅かったな、由紀」

『もう、良いでしょう……! 倫子を返して下さい。この子は“うちの子”です!』

「うちの子? 由紀、お主は何か勘違いをしていないか? ……そもそも、あの店も服も酒も、私が全部買い与えたもの。何もかも全てだ!」

『それでも私はあの店の……、“雪月華のママ”です!』

足が震えるのを精一杯堪えながら、真田会長に向かって言い放つ。反論したのは、これが初めてのことだ。

でも、分かって欲しい、私の気持ち。
会長の愚行は私で“最後”にしてもらいたい……。

「お主、いつから私に口答えするようになった? 私が与えたものである以上、どうしようと私の勝手というもの。お主に全てを与えたように、お主から全てを奪うこともできるのだぞ」

―――会長の口から最後の審判が下される。今ならまだ戻れるだろう。

でも、銀座のママとしての輝かしい栄光も何もかも、私は失ったって良い。
ただひとり、真田会長の乾いた心を救えたら。

『構いません。倫子を返して下さい』

「言うたな、お前! 吐いた唾は飲めんぞ!」

会長の気色がみるみる変わり、怒気を帯びる。

でも、私にとっては……。まるで、玩具を取り上げられそうになっている子どものようにしか見えない。

『あなたは、子どもです。小さい頃に満たされなかったものを、こうして不健全な形で今、満たそうとしている。でも、それは間違っています。私は……私たちは人形じゃない!』

「何を言うかぁぁぁッ!」

怒号と共に会長が立ち上がる。

『倫子は連れて帰ります』

“恐れ”に勝る感情は、“愛”なのだろう。この人になら殺されても、私はそれで良いと思った。

「では、このおなごを連れて帰るといい。ただし、お主は今から“ただの女”じゃ。今日以降、どの店でも働くことはできん。二度とな……」

『承知の上です……』

唇を噛む。
悔しいからじゃない。悲しいから。
分かって欲しいから。

「おい、下ろせ」

会長の号令とともに、吊るされていた倫子が床に崩れ落ちる。

『倫子、帰ろう……?』

息も絶え絶えな彼女に駆け寄り、声を掛ける。

しかし、彼女から帰ってきた返事は予想外のものだった。

「余計なことしないでよっ!」

縄でギツギツに縛られた彼女は、キッと私を睨みつけ、そう言い放った。

『え……?』

「私は、今、会長の寵愛を受けているの……! 私から望んでやってることに、あんたからどうこう言われる筋合いはないわ!」

―――ああ。もう全てが狂っているんだ

私はその時、思った。

“会長の欲”と“倫子の欲”。

……それらはグズグズになって癒着し、ひとつの醜い肉塊として、ここに在るのだ。

「……分かったかぁ! 帰れぃ!」

『会長!』

会長の最後の言葉と共に、黒服が私を囲む。勝ち誇ったような倫子の眼差し。

そうか。
最初から全てが狂っていたんだ。

これが“標準”ってこと。もしかしたら私も、狂っているのかもしれない。

黒服に促され“人形部屋”から追い出される。
きっと今の私は、泣き笑いのような顔をしているのだろう……。

『あはは……』

マンションの廊下で、ひとり乾いた笑い声が響く。

泣かない。
泣くもんか……。
泣けば、会長の思うツボ。

―――私は奥歯をギリと噛んで、エレベーターに乗りこんだ。

占いで出た“ストレングス”のカードが思い浮かぶ。
凛とした女性が、獅子を手懐けているあのカード。

あの二人には信頼関係があるのだろう。
だから女と獅子として成立し得るのだ。

でも、私と会長との間には、初めから信頼関係などなかった。何もなかったんだ……。

狂気に愛は通用しない。初めから、私のしようとしていたことは、おこがましいことだったのだろう。

自分を納得させるかのように、あれこれ考えを巡らす。白昼夢を見ながら徘徊する病人のように、フラフラとエントランスを出る。

会長との食事。初めてお店を持たせてもらった時のこと。スイートルームで二人きりの夜。

これら全ては、高く持ち上げておいて一気に叩き落とすための、“会長のシナリオ”だったのだ。

私はそれを“ホンモノ”だと思い違いしていただけのこと。そう、誤解していただけのことなんだ。

新宿の夜は、いつまでも明るかった―――。


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【今回の主役】
須藤由紀(絢芽) 蠍座30歳 クラブホステス
豊満な肉体を持つセクシーな女性。貧しい幼少期を経て、自分の身体一つを武器に若い頃から水商売の世界でトップを取り続けてきた。さまざまな男性と情事を重ねる日々の中で、自分の生き方に疑問を感じ、男と女の化かし合いに疲れている。このまま、夜の世界の女帝となるか、それとも……。


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