「体を売りながら」生きる少女…|12星座連載小説#125~牡羊座11話~

文・脇田尚揮 — 2017.7.25
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第125話 ~牡羊座-11~


前回までのお話はコチラ

―――バンのハンドルを握る。

私はどちらかというと、他の女性と比較して気持ちの切り替えが早い方だ。職業柄、そうじゃないと務まらないこともあるし。

だけど、私だって女だ。いざこれからって時に、彼氏からあんなことを留守電で伝えられると、気持ちが挫かれる……。

「先輩、収録が終わったら、打ち上げしましょう! パーッと」

私の不穏な空気を察してか、如月が気を遣ってくれる。

はぁ……。後輩に気を遣わせるなんて、私、TVウーマンとして失格だわ……。

『そうね! 焼肉食べよ! 木田さんあたりを誘って、全部奢ってもらっちゃう!』

気合いを入れなおして、精一杯の強がりを見せた。

新宿は、夜中でも明るい。
車をコインパーキングに停めて、“さゆりさん”の待つネットカフェへ向かう。
ネットカフェの店長さんに、アポイントは取ってあるから安心ではあるけど……。

ネットカフェイメージ

どうして彼女はネットカフェを待ち合わせ場所に選んだのだろう。

その答えは、彼女に会うとすぐに分かった。


ネットカフェのブースに入ると、今しがたメイクを落としたのか、“すっぴん”姿の女性がいた。

そして、そこにはメイク道具やらハンガーにかかった服やらが所狭しと並べられていた。一瞬、普通の家の、女の子の部屋に足を踏み入れたかのような錯覚に陥った。

「どうも~」

『初めまして。ご連絡させて頂いた竹内です。よろしくお願い致します』

名刺を差し出す。

さゆりさんは、少しぽっちゃりしているけど、出るとこ出ている、いわゆる“オトコ好き”する体型で、顔は童顔だった。

「顔出しNGなんで、よろしくお願いしますね~」

まだどこかあどけなさの残る彼女は、そう言ってタバコを吸い始めた。

部屋が狭いため、如月にカメラを渡してもらうよう促す。この部屋に3人はムリだろう。自分でカメラをまわしながらのインタビュー形式に切り替える。

『今回、“貧困女子”というテーマのドキュメンタリーにご協力下さり、有難うございます。早速なんですが、さゆりさんは今、どういった生活をされてるんですか?』

“紋切り型”だが、まずは質問を振ってみる。

「あたしは“ウリ”しながら生活してるよ」

“ウリ”……つまり、売春ってことか……。

「だから、365日毎日セックス漬けってワケ」

どこか遠くを見ながら、乾いた声でアハハと笑う彼女。

『家は持たないんですか? ご家族は?』

「ああ、ママがいるよ。でも、家には帰りたくないの。かと言って、私の収入じゃ、どこも借りられないからここに“住んでる”の」

『どうして、家に帰りたくないの?』

そう訊ねると、彼女は一瞬曇った表情になり、

「ん……ママが私とAVに出ろって言うから……」

驚くようなことを口にした。

「ママはAV嬢やってるの。パパに捨てられてから。で、昔私が19の時に一緒にAVに出たのね。私は嫌だったけど、ママがどうしてもって言うから」

『……』

「それが、私の初体験で……。私、高校を中退してから、働かないで家にいたから、断れなかったのよ。生活苦しいって知ってたし」

何も言えなかった。19歳で母親に頼まれて、裸姿を世間に晒されるなんて、どんな気持ちだろう……。
想像を絶する現実を突きつけられた気分だ。

「で、結構売れたらしくって、そのAV。ママがまた一緒に出ようってしつこいの。だから家を出て“ウリ”しながらネカフェで生活してるのよ」

『1日の売上はどれくらいなんですか?』

「う~ん、お金持ってる人とかは、一回5万くれたりもするけど、平均で2万ってとこかな。ホテル代は相手にもってもらって。ただ、“ヤリパク”されることもあって、あれだけはカンベンだわ。まぁ、本当にお金に困ったら、避妊なしで3万とかもらうこともできるけど……、でも病気とか妊娠怖いし」

さゆりさんはやたらと饒舌だ。きっと孤独で、寂しくて、人に話すことで自分を正当化したいのだろう。

“私は間違っていない”

そう誰かに認めてもらいたいのかもしれない。

それから30分ほど、彼女の仕事内容や生活のこと、そして生い立ちについてインタビューした。

話の途中、彼女がポツリと呟いた、

「おうちに帰りたい」

という言葉に、胸が痛んだ。

謝礼を渡し、如月とネットカフェを出る。

―――二人とも無言のまま、バンを会社まで走らせる。

私は平凡ながら、幸せな少女時代を過ごしてきた。

人生は時として避けられない出来事が待ち受けていたりもする。でも、それが多感な時期に起こったとしたら―――。

“歪み”が生じても仕方ないのかもしれない。

社内は人の気配がない。私も如月も、疲弊しきっている。

続きは、後日ってところかな。

『お疲れさま。良い画が撮れたね。取材はあと1件だっけ。編集しながらやっていこうか』

「はい、そうですね~。明日の夜までには、今日分を終わらせときます~」

意外とタフなヤツ。頼もしいわ。

『じゃあ、今日は解散。また明日の夕方にね』

「はい、先輩もゆっくり休んでくださいね」

そう言って、私たちは別れた。

ひとりになると、裕也のことが急に気になり始める。スマホを確認してみても、裕也からの連絡はあれからない。

寝ている運転手を起こし、私はタクシーに乗り家へと急ぐ。

帰宅してドアを開けると、知らない女と裕也が裸で寝ていた―――。


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【今回の主役】
竹内美恵 牡羊座32歳 駆け出しディレクター
熊本県から状況し、都内でADとして下積みの後、最近ディレクターに。年下の男(吉井祐也・劇団員)と3年近く同棲をしている。
性格は姐御肌で面倒見がよく、思いついたらすぐ行動するタイプ。反面、深く物事を考えることが苦手でその場の勢いで物事を決めてしまうきらいがある。かなりワガママだが、テレビ局内での信頼はあつい。


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