「I have. 」~私は所有する。~|12星座連載小説#114~牡牛座 最終話~

文・脇田尚揮 — 2017.7.7
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第113話 ~牡牛座-最終話~


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―――3ヶ月後

私は自分の部屋のベッドで、真っ白なシーツに包まれている。

そして、その隣には……秀さん。

私の“呪い”とも言えるほどの、雅俊さんへの執着心を彼は受け入れ、そしてそれ以上の存在になってくれたのだ。

スヤスヤと寝息を立てて眠る彼の横で、私は心が満たされているのを感じた。

彼は、ありのままの私を受け入れてくれる。コンプレックスまで全部。

それが全ての決め手だった―――

初めて二人でデートをした“あの日”から、私たちは始まった。

あの日、私は秀さんに全てを話した。

自分には忘れられない人がいること、そして、その苦しみから逃れるために秀さんを利用してしまっていること。

包み隠さず、全てを。

そしたら、秀さんは一言。

「それが人間ってものでしょ」

受け入れてくれるはずないと思っていたから、驚いちゃった。何か誤解しているんじゃないかと思って、もう一度説明し直したくらい。

でも、彼は顔色一つ変えず、「人間って弱いですから…よく分かります」って言ったわ。

そんなこと言ってくれるのも、最初のうちだけだと思っていた。

それから何度かデートを重ねた。ランチだけでなく、ディナーも。

いくら会っても、秀さんは何も変わらなかった。

「清水さんが、過去のことを忘れることができるまで、私はこうしていつまでも待ち続けます」

そう言ってくれたのが、8回目のデートだったかしら……。

私も結構考えを曲げない方だけど、そんな私以上に忍耐力のある人だった。

雅俊さんのことを、完全に忘れたと言ったら嘘になる。でも、たまに思い出す程度に薄らいだ。

秀さんは、こんなことを言っていた。

「私が取り組んでいる環境事業というのは、とてもとても時間のかかるものです。こんな風な街にしたいという構想があったとしても、完成までに数十年もかかってしまうのです」

「これは、人間関係や恋愛にも通ずることではないでしょうか。出会いの種を蒔いて、そこから信頼という名の芽が出て、幸せの花を咲かせるまでには“時間”が必要です」

「だから私は“待つ”ということの大切さを知っているつもりです。その……何を言いたいかというと……」

―――そこまで言いかけた彼に、私は口づけをした。

それが、私と秀さんの始まりだった。

今でもたまに雅俊さんのことを思い出して、胸が痛くなることもある。でも、その痛みも前ほどじゃない。

それはきっと、今が充実しているから。秀さんの温かさに包まれているからこそなのだと、思う。

私がお酒で失態をした、あの夜。秀さんは何も言わずに私を介抱し、守ってくれた。

あの時と変わらず、彼はずっと私を見守ってくれている。いつまでも、過去の男から抜け出しきれないダメな私を―――

無防備に眠る彼の髪を撫でる。

雅俊さんのように爽やかじゃないし、リードしてくれるわけでもない。でも、彼は私にとっての“唯一無二”の存在なの。

この3ヶ月間一緒に過ごしてみてよく分かった。

これほど絶対的な安心感を私に与えてくれる人は、他にいないだろう……って。

ベッドから起き上がり、着心地の良い薄手のワンピースを羽織る。

朝ごはんを作ろう。彼が起きて、喜んでくれるように。

心の痛みを少しずつ取り除いてくれる彼への、私なりのちょっとしたお礼。

冷蔵庫を開け、レタスとマヨネーズ、ハムを取り出す。そして、トースターにパンを二枚セットし、スイッチオン。

熱々のお湯でコーヒーを淹れる。そして、フライパンに卵を二つ。お箸でかき混ぜスクランブルエッグに。

大切な人と、幸せな朝を迎え続けたい。それが私の一番の夢だった。

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―――私の夢を、秀さんが叶えてくれた。

これから秀さんと時間を重ねていく中で、私は雅俊さんとの思い出を心の宝箱にしまい込むだろう。

時には、そっと開いて思い出すこともあるかも知れない。

でも……、一瞬一瞬を、秀さんと楽しんで生きていく。

牡牛座の女の人生は、

“ I have. ” ~私は所有する。~

かけがえのないものを、掴んで離さない。

私は手放すことへの恐れがあった。だから、自分から離れていくものにすがりつき、いつまでも暗い場所に立ち止まっていた。

だけど、そんな私を秀さんは外へと連れ出してくれた。きっと、これからの彼との未来は明るいだろう。

朝陽が、部屋に差し込んできた。もうすぐ目を覚ますであろう、彼の横顔に軽く“おはようのキス”をする。

今、私は安心感に包まれています―――。

牡牛座の女の人生 ~Fin~


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【今回の主役】
清水和歌子 牡牛座28歳 保育士
子供好き。学生の頃から付き合っていて、結婚まで考えていた彼(飯田雅俊)に振られる。彼との恋をずっと引きずっており、復縁を望んでいる。ややぽっちゃり体型だが、男ウケする柔和な笑顔が特徴的。結婚していい奥さんになるのが夢。友人の紹介で、同郷の志田秀と引き合わされ、淡い恋心を持ちながらも、過去を忘れられずに苦しむことに。


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