「I have. 」~私は所有する。~|12星座連載小説#114~牡牛座 最終話~
【12星座 女たちの人生】第113話 ~牡牛座-最終話~
前回までのお話はコチラ。
―――3ヶ月後
私は自分の部屋のベッドで、真っ白なシーツに包まれている。
そして、その隣には……秀さん。
私の“呪い”とも言えるほどの、雅俊さんへの執着心を彼は受け入れ、そしてそれ以上の存在になってくれたのだ。
スヤスヤと寝息を立てて眠る彼の横で、私は心が満たされているのを感じた。
彼は、ありのままの私を受け入れてくれる。コンプレックスまで全部。
それが全ての決め手だった―――
初めて二人でデートをした“あの日”から、私たちは始まった。
あの日、私は秀さんに全てを話した。
自分には忘れられない人がいること、そして、その苦しみから逃れるために秀さんを利用してしまっていること。
包み隠さず、全てを。
そしたら、秀さんは一言。
「それが人間ってものでしょ」
受け入れてくれるはずないと思っていたから、驚いちゃった。何か誤解しているんじゃないかと思って、もう一度説明し直したくらい。
でも、彼は顔色一つ変えず、「人間って弱いですから…よく分かります」って言ったわ。
そんなこと言ってくれるのも、最初のうちだけだと思っていた。
それから何度かデートを重ねた。ランチだけでなく、ディナーも。
いくら会っても、秀さんは何も変わらなかった。
「清水さんが、過去のことを忘れることができるまで、私はこうしていつまでも待ち続けます」
そう言ってくれたのが、8回目のデートだったかしら……。
私も結構考えを曲げない方だけど、そんな私以上に忍耐力のある人だった。
雅俊さんのことを、完全に忘れたと言ったら嘘になる。でも、たまに思い出す程度に薄らいだ。
秀さんは、こんなことを言っていた。
「私が取り組んでいる環境事業というのは、とてもとても時間のかかるものです。こんな風な街にしたいという構想があったとしても、完成までに数十年もかかってしまうのです」
「これは、人間関係や恋愛にも通ずることではないでしょうか。出会いの種を蒔いて、そこから信頼という名の芽が出て、幸せの花を咲かせるまでには“時間”が必要です」
「だから私は“待つ”ということの大切さを知っているつもりです。その……何を言いたいかというと……」
―――そこまで言いかけた彼に、私は口づけをした。
それが、私と秀さんの始まりだった。
今でもたまに雅俊さんのことを思い出して、胸が痛くなることもある。でも、その痛みも前ほどじゃない。
それはきっと、今が充実しているから。秀さんの温かさに包まれているからこそなのだと、思う。
私がお酒で失態をした、あの夜。秀さんは何も言わずに私を介抱し、守ってくれた。
あの時と変わらず、彼はずっと私を見守ってくれている。いつまでも、過去の男から抜け出しきれないダメな私を―――
無防備に眠る彼の髪を撫でる。
雅俊さんのように爽やかじゃないし、リードしてくれるわけでもない。でも、彼は私にとっての“唯一無二”の存在なの。
この3ヶ月間一緒に過ごしてみてよく分かった。
これほど絶対的な安心感を私に与えてくれる人は、他にいないだろう……って。
ベッドから起き上がり、着心地の良い薄手のワンピースを羽織る。
朝ごはんを作ろう。彼が起きて、喜んでくれるように。
心の痛みを少しずつ取り除いてくれる彼への、私なりのちょっとしたお礼。
冷蔵庫を開け、レタスとマヨネーズ、ハムを取り出す。そして、トースターにパンを二枚セットし、スイッチオン。
熱々のお湯でコーヒーを淹れる。そして、フライパンに卵を二つ。お箸でかき混ぜスクランブルエッグに。
大切な人と、幸せな朝を迎え続けたい。それが私の一番の夢だった。
―――私の夢を、秀さんが叶えてくれた。
これから秀さんと時間を重ねていく中で、私は雅俊さんとの思い出を心の宝箱にしまい込むだろう。
時には、そっと開いて思い出すこともあるかも知れない。
でも……、一瞬一瞬を、秀さんと楽しんで生きていく。
牡牛座の女の人生は、
“ I have. ” ~私は所有する。~
かけがえのないものを、掴んで離さない。
私は手放すことへの恐れがあった。だから、自分から離れていくものにすがりつき、いつまでも暗い場所に立ち止まっていた。
だけど、そんな私を秀さんは外へと連れ出してくれた。きっと、これからの彼との未来は明るいだろう。
朝陽が、部屋に差し込んできた。もうすぐ目を覚ますであろう、彼の横顔に軽く“おはようのキス”をする。
今、私は安心感に包まれています―――。
牡牛座の女の人生 ~Fin~
【今回の主役】
清水和歌子 牡牛座28歳 保育士
子供好き。学生の頃から付き合っていて、結婚まで考えていた彼(飯田雅俊)に振られる。彼との恋をずっと引きずっており、復縁を望んでいる。ややぽっちゃり体型だが、男ウケする柔和な笑顔が特徴的。結婚していい奥さんになるのが夢。友人の紹介で、同郷の志田秀と引き合わされ、淡い恋心を持ちながらも、過去を忘れられずに苦しむことに。
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