「I feel. 」~私は感じる。~|12星座連載小説#111~蟹座 最終話~

文・脇田尚揮 — 2017.7.4
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第111話 ~蟹座-最終話~


前回までのお話はコチラ

―――1年後

カラーン……
カラーン……

すぐ近くから、鐘が鳴る音が聞こえる。

今私は、長いこと働いてきた結婚式場「サンクチュアリ」にいる。

“プランナー”としてではなく“花嫁”として、だ。この上ない幸せに包まれている。

―――あれからいろんなことがあった。

あの妻子持ち男との一件は、私の心に暗い影を落とした。

“結婚”の二文字のために、自分なりに真摯に誠実に、自らのことを語り相手の話に耳を傾けた。

しかし、相手はおそらく身体目当てだったのだろう。あるいは妻子持ちの身で恋を楽しみたかったのか。

『結婚したい』という気持ちが強すぎたあまりに、相手を見抜けなかった自分が情けない。「バツイチ子持ちでも良い」という発言を、優しさだと勘違いした自分が恥ずかしい。

そんな出来事を、すぐに消化しきれるはずはなく、ただただ『もう二度と結婚なんてしない』と思うだけだった。

その夜帰宅したとき、泣いている私を見た母は、驚きそして慰めてくれた。それはもう、わんわん泣いたわ……。

「そんなに結婚にこだわることもないじゃない」

その一言に私は救われた。

母がいて、娘がいて、そして私がいる。

それで良いんだと思った。

そして、婚活サイトを退会し、仕事に没頭する毎日を送ったわ……。

あっ、そうそうあの“山岡さん”も、あれからまた来てくれて、うちで結婚式をしてくれたのよね。私も必死でプランを練り直し、簡易プランにオプションを付ける方向ですすめたの。

それはそれは、幸せそうだったわ。私も嬉しかった。

―――その日、嬉しそうな私の顔を見て、母がそっと差し出してきたのが“お見合い写真”だったの。

そう。その写真の彼が、今、私の横でタキシードを身にまとっている賢也さん。私の苗字は、今月から“瀬名”から“北澤”になる。

これまでは頑なに母からのお見合い話を断り続けてきた私だったけど、その時はなんだかスッと受け入れられたのよね。

“お見合い”も悪くないかも……って。

賢也さんの写真を見たときの第一印象は、“何だか田舎臭い”だった。

建築家として、宮城県で町おこしや村おこしの仕事に携わっていると母から聞いた時は、「嫁がなくちゃいけないじゃないのよ!」と母に文句を言ったものだ。宮城に嫁ぐとなると、今の仕事も辞めなくちゃいけない。由愛も転校することになる。今のマンションを出て、見知らぬ土地で暮らすなんて考えられない。

でも……

なんでかしら。不思議なものよね。

彼から滲み出る、“人の良さ”っていうのかしら、何とも言えない純朴さを感じて、『会うだけなら』とOKしたの。

そこからは結婚まであっという間だった。

初めて彼と会った時に、彼もまたバツイチで息子がいると話してくれた。

―――それが決め手だったの。

一年前の“あの時”の私とシンクロしたかのような、不思議な感覚だった。

ああ、この人は“本気”なんだ……って確信したわ。

彼と初めて会った日の夜、私は由愛に相談した。

もし、ママが新しいパパと結婚したらどう思う? 結婚してお引っ越ししたら、今のお友達と離れちゃうけど大丈夫?

不安から色んなことを聞いた。

でも、娘は

「楽しそう!」「行ってみたい!」

とのこと。ちょっと拍子抜けしちゃった。

賢也さんのご両親との顔合わせのときなんか、母が、

「片親で育てましたので、至らぬところもあるかと思いますが、どうぞ、どうぞよろしくお願いいたします……」

と、額が畳につくほどに深々と頭を下げてくれたっけ。

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私の寂しさを一番よく分かってくれていたのは、実は母だったんだな……って、その時ようやく気づいたわ。

母は、父と別れてからはずっと独りだった・私の知らないところで男性との出会いもあったのかもしれない。それでも再婚することはなかった。

母にどういった思惑があったのか、どんな異性関係があったのか、私は知らない。

だけど、私が再婚したいのにできないという問題を、最も真剣に考えてくれていたのだ。

今思えば、

一度は失敗したこと。出会いを求めてたくさん彷徨ったこと。信じた男に騙されたこと。

全てムダではなかったと、自信を持って言える。

ヴァージン・ロードを一歩一歩と踏みしめる。横には賢也さん、後ろには、私の愛娘・由愛と、賢也さんの息子・毅。

母と、賢也さんのご両親、これまで同じ職場で働いてきた仲間たちに見守られながら、少しずつ歩みを進めていく。

「亜矢さん、お幸せに~!」

田代さんが涙声でエールを送ってくれる。相変わらず(頭が)輝いてるネ、田代さん!

ゆっくり、ゆっくり歩いて……。そして、私は振り返り、手に持ったブーケを思い切り大空へ放り投げた―――

蟹座の女の人生とは、

“ I feel. ” ~私は感じる。~

家族・親しい仲間とのふれあいを通して、愛情や情緒性を育むこと。

―――私は今、沢山の大切な人たちに囲まれて、幸せです。

蟹座の女の人生 ~Fin~


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【今回の主役】
瀬名亜矢 蟹座29歳 ウェディングプランナー
バツ1子供あり(瀬名由愛・7歳)。仕事で、華やかな結婚式場のプランニングを企画しながらも、どこか冷めている自分に気づきつつある。婚活や合コンには頻繁に参加しているが、どこか満たされない”出会いイベントジプシー”な一面も。カップルの幸せを見送る立場でありながら、医者である元夫(二階堂恭二)との離婚を経験した自分に矛盾を感じている。


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