婚活で経験した「男からの裏切り」|12星座連載小説#110~蟹座11話~

文・脇田尚揮 — 2017.7.3
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第110話 ~蟹座-11~


前回までのお話はコチラ

石田さんがメールを開封してから10分が経った。

正直に自分のことを伝えた上でダメなら仕方がない。

そんな風に、半ば諦め気味で待っていると……、

―――きた!!

ピロンという電子音が鳴った。

急いで開封すると……

「亜矢さん

正直に言って下さって有難うございます。

私は亜矢さんがバツイチであろうと関係ないと思っています。出会ってからの期間は関係ありませんし、亜矢さんの容姿も私は気になりません。

会ってお話ししたいという気持ちに変わりはありません。」

この人だわ……! 私が待ち望んでいた“運命の相手”は!

私は、すぐさま石田さんに返信し、週末、新宿で会う約束を取り付けた。

それからは、指折り数えデートの日を待った。その間も、石田さんとのメールをやり取りは続いた。

もちろん、仕事もしっかりしていたけど―――

そして、運命の日。

私は18時50分に、新宿のアルタ前に到着した。

白のノースリーブニットにピンクの花柄スカート。自分なりに精一杯頑張ってみた。

お母さんには「今日は友だちの家に泊まるかも」と言ってある。

明日は仕事も休みだ。“女性の日”も来ていない。

コンディションバッチリ! これなら、何があっても大丈夫。

実際に会う石田さんは、一体どんな感じなんだろう。ドキドキしながら待っていると……

「やぁ、こんばんは!」

キターーーー!

『どうも、こんばんは亜矢です』

グレーのポロシャツにハーフパンツ、エナメルの靴という装いで彼は現れた。……ちょっと身長低めでファッションはダサいけど、彫りの深い整った顔立ち!

「いやぁ、すぐに亜矢さんだって分かりましたよ!」

こんなに沢山人がいるのに、良く気づいて下さったわ! 神のお導きかしら!?

『直接お会いするのは、初めてですね! 今日はよろしくお願いします』

「こちらこそ! では参りましょう。近くのイタリアンがとっても美味しいんですよ」

彼について行くこと十数分、ヒールを履いている足が痛い……。

でも……、きっと、素敵なお店に連れて行ってくれるのね、ガマン。

着いたのは、少しさびれたイタリアンのお店。

中に入って、彼がエスコートしてくれる……と思いきや、

「すみません、本日あいにく満席ですっ……て」

ええっ! 予約していなかったの!? ざ、ザンネン……。

でも、気を取り直して……

『仕方ないわ。週末ですもの』

「申し訳ないです。あまり歩くのもあれですし、近くの居酒屋にしましょうか」

居酒屋か……。きっと、私の足を心配してくれているのよね。

『えぇ、じゃあそうしましょう』

会って40分後、ようやく私たちは食事にありつけた。お通しの枝豆だ。

まぁ、こういうのが好きな人もいるからね。

「亜矢さん、お会いできるのを私は楽しみにしていました!」

『私もです。いつもお仕事大変そうなのに、お時間作って下さってありがとうございます』

「亜矢さんはお子さんがいらっしゃるのに、全く所帯じみたところがありませんね」

『いえ、そんなこと……、石田さんも、思い描いていた通りの方でした』

少し照れながら話す。

その後、2時間ほど私たちはお酒を楽しんだ。

石田さんのお話は、私の知らないことばかりでとても新鮮だった。

男性とこうして二人きりでデートをするのは、本当に久しぶり。気持ちも舞い上がる。

最初の段取りの悪さは、もう忘れちゃった。

「もう10時ですか。楽しいと、時間が経つのも早いですね」

『本当。私も楽しく飲んでいたら、すっかり酔っちゃいました』

こういう時は、酔ったフリも大事よね。

「もし良ければ、この後カラオケに行きませんか?」

おし! 2次会へGO!

『う~ん、そうですね……』

チラッと時計を見る素振りをして、

『えぇ、終電までなら大丈夫です』

と答える。そして終電を逃して、朝までコースを狙う。

「それでは、行きましょう」

居酒屋のお会計を“ワリカン”で済ませ、近くのカラオケ屋に向かう。

カラオケBOXの部屋に入ってすぐ、注文した飲み物が届く。

『石田さんは、どんな曲を歌われるんですか?』

彼の方を向いた瞬間―――

キス……された。

会って、まだ数時間しか経って……まぁ、いいか。私も寂しかったし。

―――そのまま、胸をまさぐられる。

えっ、そこは、ちょっと……。カラオケではちょっと……。

石田さんって、結構強引なのね。

唇を重ねていると、彼のスマホが光った。薄暗い部屋の中で、画面にハッキリと、

「ママ」

の2文字が浮かび上がった。

『ちょ、ちょっと待って石田さん』

「えっ? どうしたの?」

『あの……石田さんって独身ですよね?』

「いえ、妻も子どももいますよ」

は?

いやいやいや!

『あの、石田さん、私、結婚前提でお会いするものだと思っていたんですけど……』

「いえ、私はそういうつもりでは……」

怒りで、頭に血がのぼった。

『サイッッテーーー!』

私の平手が空を切り、バチーンと乾いた音が部屋に響き渡る。

そして、そのままカラオケBOXを飛び出す。“そいつ”に汚された唇を手で拭いながら。

もう二度と、結婚なんてするもんか!

泣きながらタクシーに乗り込んだ―――


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【今回の主役】
瀬名亜矢 蟹座29歳 ウェディングプランナー
バツ1子供あり(瀬名由愛・7歳)。仕事で、華やかな結婚式場のプランニングを企画しながらも、どこか冷めている自分に気づきつつある。婚活や合コンには頻繁に参加しているが、どこか満たされない”出会いイベントジプシー”な一面も。カップルの幸せを見送る立場でありながら、医者である元夫(二階堂恭二)との離婚を経験した自分に矛盾を感じている。


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