「俺たち、夫婦生活を送ってるんだよ…」|12星座連載小説#101~魚座8話~

文・脇田尚揮 — 2017.6.20
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第101話 ~魚座-8~


前回までのお話はコチラ

「通信講座って……まぁ別にいいけど、占いの仕事はどうするの?」

『続けるつもりよ。もちろんシフトは減らさなくちゃいけないけど……』

「で、家事は?」

『家事もちゃんとするし、育児も……』

「それで心理の資格を取る、と」

『う~ん……』

「花、かなり厳しいと思うよ、それは」

ぴしゃりと言われてしまった。てっちゃんは、現実的だ。反論の余地がない。

「そもそもどうして心理の資格が欲しいの? 占い師としても結構人気出てきてるんだろ?」

―――私は、麗蘭先生から今日相談を受けたこと、占い師として漠然とした不安を抱えていること、そして、お客様の人生を預かるプレッシャーについて、夫に打ち明けた。

「言いたいことはわかるし、花の一生懸命さも分かる。でも……」

『でも?』

「身体はひとつしかない。独身なら何とかなるかもしれないけど、俺たち夫婦生活を送ってるんだよ。しかも子供も二人いるし、夢叶は来年小学校に上がるんだ」

『………』

「お客さんの人生も良いけどさ、まずは家族なんじゃないかな。……お金のことなら俺が稼ぐから心配するな」

返す言葉もない。

とことん正論。それがてっちゃんだ。この話はここで“おしまい”になった。

「ごちそうさま~」
「ごちそうさまぁ」

長輝と夢叶は満足してくれたらしく、ニコニコ顔だ。作った甲斐がある。

……家族、か。

私は今のままでも十分幸せだし、これで良いのかもしれない。この幸せが、私のワガママで壊れてしまうのは嫌だもん。

「洗い物は俺がやるから、お風呂入ってきたら?」

てっちゃんが、気を遣ってくれている。やっぱり優しい。

『ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて。入らせてもらうね』

お風呂はちょうどいい湯加減。身体を洗って、ゆっくりと肩まで浸かる。

でも、何かいい方法はないものかしら。占い・家事・育児・資格取得をバランスよくできる方法。

ふぅ……。私って、欲張りだなぁ。

欲張り……欲張り……。

ん!

方法があるかも!

昔、ギリシアの数学者・アルキメデスがお風呂に入っている時、浮力の法則を発見して「エウレカ!(分かったぞ!)」と叫んで、裸で走り回ったように、私もバスタオル一枚で飛び出した。

『てっちゃん、てっちゃん!!』

「うわ! 何だよ! 裸じゃないか」

『私、分かったの! 仕事も家のことも両立させながら、勉強する時間を確保する方法!』

「ええっ?」

『電話鑑定を始めるの!』

「は?」

てっちゃんがポカーンとした顔で私を見ている。そりゃそうだ。てっちゃんは占いのことを全然知らないからな。

『えっとね、占いには直接お店でお客様を占う“対面鑑定”っていう方法以外に、電話で占う“電話鑑定”と、お悩みをもらって文章にして返す“メール鑑定”、あと“チャット鑑定”っていうのがあるのね』

「うん」

てっちゃんが反論せずに聞いてくれている。良い流れだ。

『それで、私はパソコン打つの遅いから、メールやチャットは無理だけど、電話鑑定ならやれると思って。そしたら、占いの館に行かなくても自宅でできるわ!』

「つまり、ずっと家にいていいってこと?」

『うん、実際そうすることもできると思う』

「しょっちゅう電話がかかってきたらどうすんの?」

『自分で決めた時間でスケジュールを組めるから大丈夫!』

「へぇ」

『実際に、自宅で主婦をしながら、月に30万円近く稼いでいる人もいるくらいだから、需要もあると思うし』

「なるほど」

『ね! これならいいでしょ?』

「そうだな……でもさ、それって“当たる”の? 相手の顔見えないんでしょ?」

ウッ……! 流石てっちゃん、痛いところを突いてくる。

確かに電話鑑定の場合、対面鑑定と違って圧倒的に情報量が少ない。相手の表情が見えない分、声のトーンや速度で相手の気持ちを判断しなくちゃいけないし、時間内に占いを終わらせないと、強制的に切れちゃうところもある。

―――だけど、基本は同じ。

お客様の声に耳を傾けてヒアリングすることから始まり、求めているものに対して占いの理論に基づいて的確に回答する、そこは変わらないわ。

『大丈夫。最初は勝手が違うと感じるだろうけど、基本は同じだから』

「わかった。花がそこまで言うなら良いよ。通信講座やってみなよ」

『わぁあ! てっちゃんありがとう! 大好き!』

愛する夫に思い切り抱きついて、タオルがはだけそうになる。

「おいおい、夢叶が見てるって!」

そんなことは、少しも気にならなかった。

明日、早速色々調べて資料を取り寄せよう。占い館に連絡して、電話占いサイトにも登録しなくちゃ。

その日の夜は、長輝と夢叶を早めに寝かしつけ、てっちゃんと二人甘い夜を過ごした―――

私だって占い師である前に、妻だし、女だもの。幸せに包まれながら、眠りに落ちた。


【これまでのお話一覧はコチラ♡】

【今回の主役】
和辻花子(フレイア華) 魚座33歳 占い師
既婚者であり、夫に和辻哲夫、子供に和辻長輝(9歳)と和辻夢叶(5歳)がいる。家庭と仕事の兼ね合いで悩みつつも、占い師としてそこそこの人気を得ている。しかし、あるお客の鑑定をきっかけに、占いの限界を感じて心理カウンセラーの資格を取ろうと考える。


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