権力者に「媚びる」若い女|12星座連載小説#97~蠍座7話~

文・脇田尚揮 — 2017.6.14
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第97話 ~蠍座-7~


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「待っておったぞ。今日は飲みにきた」

会長が黒服を数名連れ、座っている。

『あ、あぁ、これは真田会長、よくお越し下さいました!』

一瞬身体がこわばる。何で、何で会長がここにいるの? 想定外の出来事に戸惑いを隠しきれない。

『池田さん、あちらの席でゆっくりなさっていてください……』

同伴してくれた池田さんを、ないがしろにするわけにはいかない。でも会長の席にもつかなくちゃ。

『焦るな』

自分自身に言い聞かせる。

新宿で受けたフレイア先生の鑑定を思い出す。

―――手懐けて支配する、“力”、ストレングスのカード。

しっかりしなくちゃ。私はここ「雪月華」のママなのよ……!

「ママ、おはようございます」

佳代だ。目で「どうしますか」と聞いている。

佳代はここのチーママ。No.2として、いつもお店を任せている。私が独立した時に、他のお店から引き抜いてきた信頼できる子だ。

クラブはチーム戦。お客様に合った女の子をつけ、上手く回していく必要がある。

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池田さんのテーブルについてもらうのは、聞き上手な“春香”と“紗奈江”。会長のテーブルは“佳代”ね。もう一人は“倫子”……あの子に任せよう。

『おはよう。池田様の席には春香と紗奈江、真田様の席には……あなたと倫子でお願い』

「分かりました」

春香は大人しくて、決してお客様の話の腰を折るようなことはしない。話したがりの方にはとても好かれるわ。紗奈江は大学生。まだ若いけど頭がいい子だから、きっと池田さんと上手くやれるわね。

佳代は、どんなお客様にも柔軟に対応できるから、会長のテーブルでも安心ね。倫子……あの子は、多分会長の好きなタイプ。気が強くてちょっと難しい子だけど、佳代がカバーしてくれるはず。

女の子たちが、仕込んでおいた料理をテーブルに並べてくれる。

『真田会長、後ほどまいります……』

「ふむ」

会長は、少しつまらなそうな顔をしている。だけど、その日同伴してくれた方の席につくのが、筋というもの。

会長に一礼し、私は池田さんのテーブルへ。

『池田さん、キープボトルで良いかしら?』

「うん、よろしく」

『春香ちゃん、池田さんのボトルをお願い』

池田さんが好きなのは、焼酎。いつも“森伊蔵”の水割りを好んで飲んでいるわ。

春香が持ってきてくれた“森伊蔵”を氷の入ったグラスに注ぎ、お水を少し……。13回転半マドラーを回して、池田さんの前に差し出す。

「うん……これこれ! ママが作ってくれる水割りは最高にウマいよ」

『ウフフ。池田さんったら……お上手ね』

こういうお客様のお陰で、このお店は成り立っている。本当に助かるわ。

「池田さん、お夕飯は何を召し上がったの?」

紗奈江が、興味津々の様子で池田さんに尋ねる。

「今日はママと一緒にお寿司を食べてきたよ」

「え~! いいなぁ、羨ましい~」

「あはは、今度紗奈江ちゃんも行こうね……あっ、何か飲むかい?」

『ありがとうございます。じゃあ、ビールを頂こうかしら? 春香ちゃんと紗奈江ちゃんは?』

「私は池田さんと同じものを」「私もビールを頂きます」

池田さんの良いところは“気前がいい”ところ。ここ銀座では席に座るだけで数万円が飛んでいく。だからこそ、飲み方に“男の品格”が表れる。

ホステスへお酒の提供を渋るような男は、女の子たちに裏で陰口を叩かれる。接客もしらけちゃう。態度には出さないようにするけど……。

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「はい、ママ」

『ありがとうございます』

ビールを頂きながら、隣のテーブルの会話に耳を傾ける。

やけに静かだわ……。気になる。

『ご馳走様です。池田さん少しお席を外しますね』

「そっか……ママ、また戻って来てね~」

だいぶお酒が回ってきたのか、池田さんは上機嫌のご様子。

池田さんに一礼して、真田会長の席へ―――

『会長、お越し下さりありがとうございます…』

「待っておったぞ」

会長のグラスには深い紫色の液体が入っている。ロマネ・コンティね。

「お前も飲むか?」

今日はもう結構飲んでるから、遠慮したいところだけど……会長からのお誘いを断ることはできない。

『それでは、一杯だけ』

グラスを持つ手が微かに震える。私、この男が怖い……。

「のう、入口に飾ってある絵じゃが、趣味が悪くないか?」

『お気に召さなかったようで……。申し訳ございません』

あの絵は、このお店のご贔屓である古物商の土井さんが、私の誕生日にくれたもの。洋梨を持った半裸の女性が物憂げな表情を浮かべている、私のお気に入りの作品だ。

「外しておけ」

吐き捨てるように、会長が言った。どうして、この人は私の大切なものをこうも蹂躙しようとするの……。

それに合わせ、倫子が続く。

「私もあの絵、このお店の雰囲気に合ってないって感じていたんです。会長と私の好み似ていますね!」

彼女の会長に取り入ろうとする姿勢が、怒りを通り越して悲しかった。


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【今回の主役】
須藤由紀(絢芽) 蠍座30歳 クラブホステス
豊満な肉体を持つセクシーな女性。貧しい幼少期を経て、自分の身体一つを武器に若い頃から水商売の世界でトップを取り続けてきた。さまざまな男性と情事を重ねる日々の中で、自分の生き方に疑問を感じ、男と女の化かし合いに疲れている。このまま、夜の世界の女帝となるか、それとも……。


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