「大切なもの」を差し出す代わりに…|12星座連載小説#90~双子座9話~

文・脇田尚揮 — 2017.6.5
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第90話 ~双子座-9~


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ついさっき出会った男に、ホテルで抱かれている―――

おそらく、これまでのどんな男よりも力があり、私の人生を変えることができる男。

―――私はシンデレラになりたかった。

幼い頃から、おとぎ話の世界に憧れていた。美しいドレスに魔法の馬車、そしてガラスの靴……。

ほとんどの女子には“お姫様願望”があると、私は思っている。美しくなり、自分を守ってくれる男性に愛され、誰もが羨む生活を送る……。

男の腕の中で、そんなことを考えていた。

別に何も辛くない。私には“覚悟”があるから、何だってやれる。

義久さん……。
私は彼のことを、愛しすぎてしまった。
心の痛みから逃れるように、無心になる。

ケイゴと名乗る男に身体を弄ばれる。私の身体はとても便利にできているらしく、敏感に反応し、目の前の男を快楽に引きずり込む。

一体、何度目だろう。“こういうこと”は。

「君は本当に面白い」

ケイゴは、よほど経験豊富なのだろう。“女の扱い”を心得ている。悲しいくらいに気持ちがいい。
たどたどしい義久さんとは全く違う。でも、私が好きなのは―――

男の動きが激しくなり、そして私の中で果てた。

「良かったよ」

と、声を掛けてくれる。

『私も、感じちゃいました……。ケイゴさんのこと、好きになっちゃいそう』

「また嘘をつく、君は天性の嘘つきだね」

私の髪を撫でながら、愛おしそうに呟く。

「僕に抱かれながら、他の男のことを考えていただろ?」

この男にウソは通じないんだ。

「でも、それが僕には堪らない。君の心を踏みにじっているみたいでさ」

『……』

「僕はいろんな女を見てきた。こうして男女の関係になろうとすると、泣き出す娘もいたな。でも、僕が一番好きなのは、“覚悟のある女”なんだ。それがあるのと無いのとでは、いずれ大きな差が生まれる」

男は煙草に火を点け、ベッドの上で煙をくゆらせる。

「覚悟のある女は美しい。君はとても美しいよ」

『ありがとうございます』

そう言って、私はシーツで裸の身体を少し隠した。

「ふ……、僕が君を光り輝く“ダイヤモンド”にしてあげるよ」

この世は“等価交換”で成り立っている。私は大切なものを差し出す代わりに、欲しいものを手に入れるのだ。

これで良かったのだろうか、なんてことは考えない。
人生は選択の連続だ。そして、一度決めたことを覆すことはできない。

私はケイゴの肩に手を回し、自分から口づけをした―――

朝起きると、ケイゴと名乗る男はもう消えていた。昨夜の出来事が、幻のことのように思える。

シャワールームに向かい支度をする。義久さんからのLINEは……、もう見ない。

私は“義久さんの友梨”では、もうないんだもの。

一度帰宅し、本来の“仕事”に備える。出勤まで、まだ時間がある。

義久さんにプレゼントしてもらった靴を捨てる。次に会ったら、別れを告げよう。

思い出も何もかも捨て、“なりたい自分”になるの。

―――悲しいはずなのに、涙は全く出てこなかった。

出社すると、社内がいつになくザワついていた。

朝方に、何か驚くような事件でもあったのかしら……。すぐに報道記事に目を通さなくちゃ。

そんなことを考えながら廊下を歩いていると、局次長が何やら話している。

「まさか、辞めるだなんてね……」

心臓が止まりそうになる。辞める? 誰が?

心の中のザワつきを抑えられず、

『おはようございます! あの、誰が辞めるんですか!?』

臆面もなく、局次長に尋ねている自分がいた。

「あ、あぁ、江崎君、おはよう。それがさ……」

聞きたいけど聞きたくない。その先のことは―――

「昨日、新垣君が退職届けを出してきたんだよ、突然」

嫌な予感が的中した。どうして、義久さんが……。

『局次長、有難うございます』

私はもう、何が何だか分からなくなった。LINEをチェックするも彼から返信はない。

彼はアナウンサーとして、まさにこれから。局からの期待も大きかった。

それなのに……どうして辞めるの?

考えられることはただ一つ。

“不倫関係がバレた”。

でも、それなら私にも何かしら連絡があるはず。

おどおどしながら、局内を歩き回る。何か、何か変わったことはないかしら……!

局内を歩き回ること十数分。
特に変わった点はなく、いつも通りの光景が広がっていた。

どうして私には“お咎め”がないの!?

頭の中は、疑問で満ちていた。

双子座 第三章 終


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【今回の主役】
江崎友梨 双子座25歳 アナウンサー
23歳の時にアナウンサーとしてTV局に入社。有名大学出身だが1年浪人している。ハイソサエティな世界に憧れを抱いており、自分を磨く努力も怠らない。現在、同じアナウンサーでもあり、上司である新垣義久と不倫関係にある。当初は踏み台にしようと考えていたが、だんだんと彼に惹かれキャリアと恋の間で、悩み揺れる。

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