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ある「貧困ソープ嬢」の告白~|12星座連載小説#87~牡羊座9話~

文・脇田尚揮 — 2017.5.31
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第87話 ~牡羊座-9~


前回までのお話はコチラ

祐也のことは気になるけど、今日は勝負の日。

プライベートの問題を仕事に持ち込んでなんかいられない。

「おはよ~ございます!」

“如月らしき誰か”が私のデスクまでやって来た。気合い十分って感じだ。

彼女のトレードマークとも言える“三つ編み”が、今日は“ポニーテール”になっている。しかも、眼鏡じゃなくてコンタクトだ。

ほう、こう見るとなかなか……イケてるじゃない。

いつも三つ編み眼鏡なのは、ナゼ?と、思ってしまうほどだ。

『おはよ! 今日はキツイわよ~。ヨロシクね』

「はい!」

『じゃあ早速だけど、カメラや音響の機材チェックをお願い。バッテリーは必ず3本持って行って。SDカードも。マイクは集音できるタイプね。あ、あと照明も念のため確認して。とにかく現場では何が起こるかわからないから、準備を重ねておくに越したことはないわ』

「分かりました~」

昔、機材の準備不足で失敗したことを思い出した。インタビューのチャンスは一回きり。途中でバッテリーが切れてしまい、ディレクターからしこたま叱られた記憶がある。今では、私がディレクションする立場だ。

AD時代、怒られて、泣いて、悔しい思いをした経験が、今こうやって生きている。如月もいずれディレクターになるのだろう。彼女の後ろ姿が、なんだか頼もしく思えてきた。

さて、14時までには準備を終え、大塚までバンで移動ね。取材許可はとってあるけど、念のためもう一度チェック……と。

―――今日は時間の流れが、いつも以上に早い。

機材をすべて積み込み、如月を乗せ大塚までバンを走らせる。

『腹ごしらえは済んだ? 食べておかないと持たないわよ』

後ろに積んである、ゼリー飲料を指す。

「ありがとうございます~。大丈夫です!」

『あ、それと、その間延びした口調』

「はい~」

『そう、それ!』

「はい」

『人によっては不快に感じるかもしれないから、今日は気をつけて。』

「わかりました」

取材場所に到着だ。女二人、ソープランドの駐車場にバンを停める。何だかフクザツな心境だ。

開店前なので裏口から入り、店長さんに挨拶をする。意外と若いわね……。

『はじめまして。竹内と申します。本日はよろしくお願いいたします』

「はい、どうも。よろしくお願いします。美智子さんは16時に来るって言っていましたよ」

普通の人でホッとした。“その筋”の人が出てきたらどうしよう……と思っていた。風俗店の取材は今回が初めてだし、プライベートでももちろん無縁。私たち女にとって、未知の世界なのだ。

店内を案内してもらう。ここが、女が身体を使って稼ぐ場所……か。

ここで働いてる人たちにも子供時代があって、将来の夢を持っていたのだろう。でも何かしらの理由があって、ここに勤めることになった……。

ふと、あの女子アナのことが思い出された。ああやって、夢を叶えて、美しい世界で生きる女は幸せだな、と。

性風俗は、古くは遊郭で働く女郎に始まり、時代ごとに進化してきた。

ただ、“職業に貴賎なし”。どんな仕事であれ、プロ意識を持っていることが大切だと思っている。

―――「遅くなってすみません」

彼女は、5分遅れでやってきた。

見た目は普通の女性。決して派手すぎず、むしろ清楚な印象すらある。キャバクラで働いている女性の容姿とはかなり異なる。顔は、少し痩せていて“クマ”が見えるが、全体的に整っている。

『はじめまして。この度は取材へのご協力ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします』

「ええ、よろしく……あの、もう一度確認なんですが、顔は隠して声も変えてくれるんですよね?」

「ええ、もちろんです。プライバシーは守らせて頂きます」

如月が答えてくれた。

「良かった。安心しました」

ソープで働いていることを世間に知られたら、偏見を持たれるだろう。ましてや、お子さんがいらっしゃるのだから、心配になって当然だ。

「それじゃあ、こちらへどうぞ」

店長さんに促され、事務室へ。如月は機材チェック。私は、取材の流れを簡単に説明する。

―――取材が始まった。

『このお仕事はいつから始められたんですか?』
『月収は今、どれくらいですか?』

まずは簡単な質問を振る。そして……

『シングルマザーとのことですが、子育てとの両立は?』
『離婚されて、お相手からの慰謝料が途絶えているとのことでしたが……連絡は?』

だんだんと核心に迫る。

協力者に不快感を与えないことがインタビューの鉄則。その一方で、どこまで深く切り込んでいけるかも重要だ。

今回のテーマは“貧困女子”。そこから軸がブレてしまわないように、常に話をリードする。

―――美智子さん、曰く

昔は幸せだった。子供を育てるために、仕方なく2年前から始めた。
月収は、手取りで45万円。デリヘルから始めて、ソープに移った。
借金があり、返済に追われている。

子育ては、託児所を使っている。
旦那は、慰謝料を払うって言っていたのに、ある日を境にピタリと止まった。
ママ友に仕事していることを知られて肩身が狭い。

聞けば聞くほど、様々な実態が露わになる。でも、手取り45万円で子供の給食費さえ払えないのだろうか?

思い切って聞いてみた。

「ホストクラブに通っているんです、寂しくて……」

“寂しい”か……。これが貧困女子の、本音だった。

牡羊座 第3章 終


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【今回の主役】
竹内美恵 牡羊座32歳 駆け出しディレクター
熊本県から状況し、都内でADとして下積みの後、最近ディレクターに。年下の男(吉井祐也・劇団員)と3年近く同棲をしている。
性格は姐御肌で面倒見がよく、思いついたらすぐ行動するタイプ。反面、深く物事を考えることが苦手でその場の勢いで物事を決めてしまうきらいがある。
かなりワガママだが、テレビ局内での信頼はあつい。

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