舞い上がる女が受けた「忠告」|12星座連載小説#82~水瓶座7話~

文・脇田尚揮 — 2017.5.23
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第82話 ~水瓶座-7~


前回までのお話はコチラ

「いや~先輩! いい感じでしたね!」

『ね! これならプロジェクト始動後も期待できるね』

「ええ、楽しみです、ホント……」

今回はかなり大きな仕事になる。三橋の気合いが入るのも当然だ。

彼女は、この一回の打ち合わせのために、何日もかけて情報収集し資料を作っていた。その努力が報われて、喜びもひとしおなんじゃないかな。

『それじゃ、また明日ね』

三橋と別れて、タクシーを拾う。

なんだかんだで、結構な時間になってしまった。もう23時か……。

LINEをチェックすると、好美からは「レナ、飲みすぎないでね」とだけメッセージが届いていた。

この感じからすると、怒ってはないようだ。ホッとする。

あいつ一度拗ねると、機嫌直すまでに相当時間かかるからなぁ。

カァーっとなって猛烈にブチ切れて次の日はケロっとしているアタシとは真逆で、ジリジリと首を絞めるように責めてくる……。

まぁ、そういうところも嫌いじゃないけど。

「今、帰宅中だよ」と、LINEした。

―――家に到着するのと、ほぼ同時に好美から返信があった。

「待ってるよん。あ、ポテチ食べたいから買ってきて~」

何だよ……もう着いちゃったよ、なんて思いながら100メートルくらい先にあるコンビニまで歩いて行く。

他のひとから、こんなお願いされても「は? フザけんな」の一言で済ませてしまうけど、好美の頼みとなると断れない。

コンビニでポテチと一緒に、おでんとアイス、缶チューハイを何本か買う。今日はめでたい日だから、好美とも“宴”を開こう。

好美の好きなアセロラ味とホワイトサワー味も無事ゲットできた。さて帰るか。

――夜風が、アルコールで火照った体を冷ましてくれる。

今回のプロジェクトが成功すれば、アタシもさらに大きな企画を任されるだろう。野望があるわけじゃないけど、評価されたり認められたりすることは素直に嬉しい。


私はこの時、既にプロジェクトの開発許可が下りるものだと思い込んでいた。
『たっだいま!』

「おかえり~!」

可愛い“妖精さん”が出迎えてくれた。

「あ! ポテチにアイス、しかも私の好きな味のチューハイまで。何で分かったの!? アイス食べたいって!」

『そりゃ、ヨッシーのことは何でもお見通しだからさ』

得意げに、フフンと鼻を鳴らす。

「もう! レナレナ大好き!」

抱きつかれる。

『アハハ……ちょっとアタシ、シャワー浴びてくるね』

買い物袋を好美に渡して、一日の疲れを洗い流す。

『ふーっ』

アタシ、幸せ者だな。好美との同居生活も悪くない。

たまに男が欲しくなる時もあるけど、こんな女二人の暮らしが続くのも良いかもなぁ……。

シャワーを浴びながら、そんなことをぼんやりと考えていた。


リビングに戻ると、テーブルにはホクホクのおでんと缶チューハイがズラリと並べられていた。

「おめでとっ、レナレナ!」

『えっ?』

今日の打ち合わせが上手くいったことは、まだコイツに報告していないはず。

「ふふ~ん、私もレナのことなら何でも分かるんだよ。今日、お仕事上手くいったんでしょ?」

『……! 何で分かった?』

「ヒント! “帰ってきた時”、“玄関”」

『何だろ。笑顔だったかな?』

「ブー! 答えは“ただいま”のトーンが高かったから、でした~」

コイツ、そんなところまで……。愛を感じると同時に、ちょっと恐ろしくもある。

『ヨッシーは何でもお見通しだね』

「てへ」

好美が、軽く舌を出す。

「さ、じゃあ飲も? レナの仕事が上手くいくことを願って、かんぱ~い!」

『う~い』

缶チューハイをコツンと合わせる。爽やかなレモンサワーが喉を通り抜けていく。風呂上りのアルコールは格別だ。

さっきの虎ノ門のビールも美味かったけど、レナとこうやって飲むのも、これはこれで良いもんだ。

大根を箸で切り分け、口に運ぶ。好美はニコニコしながらポテチを食べている。

「それでさレナレナ、開発許可は下りてるの?」

好美から、思いもかけぬ質問が飛んできた。

『ん……まだ、だけど。』

「そっかぁ、じゃあまだ“見切り発車”状態なんだね」

少しイラッとしたが、図星だ。

『でも、外部の人も面白いって言ってくれたし、内部でも期待されてんだよ。ここまで材料が揃っていて、許可が下りないなんてことないよ』

「うん、上手くいって欲しいよ。でも、私もネットビジネスやっていて、途中で覆されることがよくあるから。買ってもらえたと思っても、クーリングオフされたり、入金されなくて結局キャンセルになったり。だから、はじめから期待しないことにしているの」

……コイツがこんなに“大人な考え”を持ってるなんて。引きずりやすい性格だっていうのを自覚していて、自分なりにコントロールしてるんだろう。

小さいながらも“事業”をやってるんだな、好美は。

『そっか……そうだね。だけど私は一つ一つのことを楽しみながら進めていきたいかな。例えダメだったとしてもさ』

「うん、レナにはそれが似合ってるよ」

『さ、そろそろ寝ようか』

「うん」

今夜は、驚くほど静かな夜だった。


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【今回の主役】
中野怜奈 水瓶座26歳 IT開発事業部
個性的で変わり者、我が道を行くタイプ。協調性に欠けているが、時代の先を読む“先見の明”があるため、社内での評価は高い。女子向けアプリ会社『キュートキッチュ』の新作指揮を任される。アイディアウーマンであるが、縛られることを嫌う一匹狼。後輩の三橋奈美は良い相談役。実はバイセクシュアルの性向があり、出会い系アフィリエイトで知り合った池谷好美と同棲している。

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