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「気になる男」と休日に…|12星座連載小説#76~山羊座7話~

文・脇田尚揮 — 2017.5.15
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第76話 ~山羊座-7~


前回までのお話はコチラ

さあやと別れてから、近くのデパ地下に。

出来合いのものはあまり好きじゃないんだけど、せっかく外出したからちょっと見て行こうかな……と思って。

今日は、担当している英語サークルの次回課題を作ること以外、家に帰ってすることもないし、それに……さっきから北野先生の顔がチラチラ浮かんで照れくさい。

何だか恥ずかしいから、自宅に帰るまでに、“ワンクッション”入れたかったというのがホンネだ。

夕方時のデパ地下は、人でごった返している。

サラリーマン、OL、夫婦連れ、おばさん、おじいさん……。それぞれ思い思いに食材を手に取り、今晩の食事を考えている。

乾物、惣菜、スイーツ、そえぞれのコーナーごとに、ショーケースに並べられた色とりどりの食品たちが目を楽しませてくれる。

こうやって何の目的もなく歩いていても、何となくワクワクするのがデパ地下の凄いところ。

さて……今夜は、お夕飯に何を添えようかしら。きんぴらはまだあるし……う~ん、ミモザサラダにしようかな。

量り売りサラダバイキングコーナーに向かおうとした時―――

“見知った顔”がそこにあった。

あれって……、北野先生!?

服装は紺色のポロシャツに白パンツ、髪は整髪剤でキチンと整えられている、見るからに“爽やかな好青年”が、真剣な顔つきでサラダを選んでいる。

うわ~! あれ、絶対北野先生! 間違いないわ!

初めて私服姿を見た。

どうしよう……、挨拶しといたほうが良いんだろうか。いや、それも何だか気まずいし……。

でも、あちらが私に気づいたら、まるで無視したようでバツが悪い。

身を隠すにしても隠れる場所はなく、この場から離れようとしても人が多くて動けない。

――なんて考えていると、“彼”と目が合った。

彼は一瞬固まって……、私に笑顔を向け軽く会釈してくれた。

ドキッとした。

さあやから“あんなこと”言われた後で、“これ”は反則……!

一応、こちらも作り笑いで会釈を返す。かなり表情がこわばっている気がする。引きつってるんだろうなぁ……。

どうしよう、話しかけられたら何て答えよう。

「山崎先生、近くにお住まいなんですか?」
「山崎先生はデパ地下をよく利用されるんですか?」

そんなこと聞かれるんだろうか。頭の中で、何と返そうかとシミュレーションする。

……私の頭はショート寸前。

顔を上げ、そのまま北野先生と反対方向に歩き始める。

私にできることは“その場から離れる”ことしかなかった――

帰宅途中の電車内、席は空いていたけど、座ることはせず“つり革を掴んで”立っていた。

何かにギュッと掴まっていないと、不安で仕方がない……。

私は結局、何も買わぬまま。これじゃあ何のためにデパ地下に行ったのか、分かりゃしないわ。

『ハァ』

ため息がひとつこぼれる。

まさかあんなところで北野先生とバッタリ会うなんて。どうしよう……次、学校で会ったとき、何て声を掛けたら良いんだろう。

「先日は奇遇でしたね、ウフフ」

なんて、月並みな挨拶。これまでの私ならきっとそうするだろう。

でも、今の私は……、緊張でガチガチになってしまうはず。

さっきだって、かなり挙動不審だっただろう。引きつり笑いで会釈したかと思いきや、すぐに“逃亡”。まるで悪いことをした子どもみたいじゃない。

私が北野先生の立場なら、「嫌われているんじゃないか」と思ってしまうわ。

『ハァ……』

二回目のため息。今度は少し深い。

もう! さあやのせいなんだから! 彼女の顔が目に浮かぶ。

動揺で、ひと駅乗り越してしまった。

――結局、自宅近くのスーパーで食材を買って帰る。

袋の中には大根、タコ、めんつゆ、鳥そぼろ肉と卵。今日は、大根とタコの煮物、あとそぼろご飯を作ろう。

不思議なもので、自宅が近づくと少し気持ちが落ち着いてきた。見知った環境、いつもの場所だからだろうか。

自宅に到着。

『ハァ~』

三回目のため息は、安堵のそれ。

買い物袋をテーブルに置き、手を洗ってうがいをする。

やっと落ち着いた。お腹もすいたし、チャッチャとご飯を作ってしまおう。

料理をしているときは、無心になれる。

水を張った鍋を火にかけ、塩をひとつまみ。一通り食材を洗い、大根をカツラ剥きしていると、グツグツとお湯が沸いている音が聞こえてきた。タコと輪切りの大根を入れて茹で、めんつゆベースで作った出汁を投入し、さらにもうひと煮立ち。

この流れ、わずか15分。

そして、朝食のスクランブルエッグをレンジで温めている間に、鍋の横のフライパンで、鶏のひき肉を炒める。

20分足らずで、完成。

私の料理は、そこまで美味しい!ってものじゃないけど、手際が良いのが“売り”だ。さあやも言っていたけど、「段取り力がハンパない」らしい。

まぁ、恋もそんな感じで計画通りに進められたら、いいんだけどねぇ。

ごはんにかけた鳥そぼろを口に運いながら、ふと思う。

実は、私は北野先生のことを何一つ知らないのだ……。

きっと北野先生もまた、私のことを知らないだろう。もちろん、今こうしてご飯を作っていることも。

――自分がどれだけ周囲の人々に関心がないのか、改めて痛感した。


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【今回の主役】
山崎千尋 山羊座30歳 高校教師(英語)
生徒からの信望も厚く、仕事ができる「良い先生」。ただ、他人に甘えるのがヘタなので誤解されることも。大学時代にアルバイトをしていた塾で、塾長にセクハラを受け続けた過去がトラウマになっている。自分に恋をする資格が無いと思っており、結婚願望はある一方、身動きできない。後輩の北野俊一から好意を持たれているが、気づいていない様子。

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