アラサー女子の「恋心」|12星座連載小説#72~山羊座6話~

文・脇田尚揮 — 2017.5.9
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第72話 ~山羊座-6~


前回までのお話はコチラ

待ち合わせの時間、ちょうど5分前。よしよし。

喫茶店の中に入って、店内を見渡す。

さあやも私もタバコの煙が苦手だから、あそこの席がいいかな。

ウェイトレスさんに、奥の席をお願いする。

さあやと会うのも久しぶりだなぁ。私は公務員だから土日休みだけど、さあやは看護師、しかも救急病棟担当だからね、なかなか会えないのよね。すごく贅沢な気分。

しっかし……さあやったら、あんなに働いていて彼氏との関係大丈夫なのかしら?


あれこれ考えているうちに、さあやがやってきた。

――お互いの近況、恋愛事情、そして結婚のこと……アラサー女子二人で語り合う。

長い人生、振り返ればなんてことない内容なんだろうけど、“今、この瞬間”の私たちにとっては、とても大切な話なのだ。

案の定、さあやはまだ、彼との結婚に踏み出せないみたい。

さあやらしいというか……。

少し困ったような、でもちょっと嬉しそうなさあやの表情が伺える。

『ところで』

「ん?」

『千尋は結婚したいの?』

えっ!

さあやの意外な質問に、一瞬ピキーンと凍りついた。

……結婚はできるものならしたいわ。でも、それにはまず相手を作らなくちゃ。最後に付き合ったのは……あれ? えーと、いつだったっけ。確か……3年前? 友達の紹介で出会った、志田……“志田秀”さん。

志田さんはどこにでもいるような平凡な男性だった。

決して女性を傷つけないし、親切で仕事も公務員とカタい。環境アセスメント事業か何かに取り組んでいた記憶がある。

でも、とにかく面白くないのだ。一緒にいて何も響くものがなかった。私も仕事人間、彼も仕事人間。結局二人とも、仕事の優先順位が恋愛を上回っていたから、自然消滅しちゃったのよね。だから男女の関係もなし。キスくらいはしたけど……。

もっと彼がリードしてくれていたら、まだ続いていたかもしれない。結局、半年も経たずに別れちゃったからなぁ。

もちろん、私も悪かったと思う。もう少し彼に甘えることができれば良かったのかも。でも、男の人に甘えたり頼ったりするのって……なかなか難しい。どうしたらいいのか全然分からなくって。

志田さん、いい人だったんだけどなぁ。

そんなことを思い出していると、さあやが心配そうに顔を覗き込んできた。

いけないいけない。志田さんのことはさあやにも言ってなかったっけ。付き合っているのかどうかも、正直疑問だったから。

さあやの質問に、

『うん、したい……かも。』

と、答える。

さあやが、色々気遣ってくれているのは分かるんだけど、もしかしたら私、恋愛が苦手なのかもしれないな……。

「周りには、いいなって思えるような人、いないの?ほら、例えば男の先生とか……」

さあやが尋ねてくる。

学校内……考えたこともなかった。学校は働くための場所で、恋愛をするなんて“言語道断!”だと思っていたから……。

まぁ、先生同士で結婚するケースもあるけど、自分は想像もつかない。

だいたい、生徒たちにバレるでしょ? そしたら、冷やかされて授業どころじゃなくなっちゃうわ。ただでさえ閉鎖的な環境なのに。

そんなことを考える一方で、頭の中では男性教諭を一人一人思い浮かべていた。

国語の伊東先生は、気難しそうでムリ。
体育の横塚先生は、たくましいし頼りになるけど、ちょっとアツすぎる……。
社会の杉原先生はいい人だけど、話が長くてついていけないし。

う~ん

あとは全員、既婚者かおじいちゃん先生よね……。

あ! 一人忘れてたわ。

剣道部顧問、数学の北野先生!

あの人は爽やかだし、よく気が利く尊敬できる男性。

考えてみると、意外と素敵な人……。

『う~ん、一人いるかも』

無意識に、口にしていた。

みるみる自分の顔が熱くなっていく。なんだか意識している自分が恥ずかしい。でも立場上、付き合うとか絶対ないんだから!

それから他の話も色々し……、

「それじゃあね」

『うん、また連絡する。』

さあやと別れ、その日は終わった。

『はぁ~』

さあやと話している中で、自分が北野先生のことを意識していることに気づいてしまった。

どうしよう……、次からまともに喋れるかしら。

昔から、好きなひとには、想いとは真逆の態度をとってしまいがちな私。学生の頃なんて、好きな相手に好意を悟られたくなくて、わざとそっけなくしたり、話しかけないようにしたりしていた。

あ~~もう、さあやったら、北野先生のこと意識しちゃうじゃないのよ!

――それでも、どこか私の心は軽かった。

山羊座 第2章 終


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【今回の主役】
山崎千尋 山羊座30歳 高校教師(英語)
生徒からの信望も厚く、仕事ができる「良い先生」。ただ、他人に甘えるのがヘタなので誤解されることも。大学時代にアルバイトをしていた塾で、塾長にセクハラを受け続けた過去がトラウマになっている。自分に恋をする資格が無いと思っており、結婚願望はある一方、身動きできない。後輩の北野俊一から好意を持たれているが、気づいていない様子。

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