女が「稼げる仕事」で失ったもの…|12星座連載小説#60~魚座6話~

文・脇田尚揮 — 2017.4.18
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第60話 ~魚座-6~


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少しでも清々しい気持ちにできたら。ちょっとでも前進するお手伝いができたら。

……それが私の占いの信条。

目の前のお客様が、来たときよりも笑顔になって帰ってくれることが、1番の喜び。

須藤さんの鑑定が終わった。

彼女の中で答えが見つかったのか、未来のことや最終結果はそれほど気にしていないようだった。

どういう形であれ、彼女なりに道筋を定められたのであれば、この時間に意味があったってこと。

「先生、有難うございます。私、勇気が湧いてきました。今日、ここに来て本当に良かった」

須藤さんが笑みを浮かべている。

『私としても、そう言っていただけると嬉しいです。……陰ながら応援していますね』

具体的にどういう悩みがあったのかは、私には分からない。

でも、彼女は彼女なりに戦い、傷つき、それでも前進しようと頑張っている。そんな彼女の背中にエールを送る。

一礼して、彼女は鑑定室を出て行った。

……幸せになって欲しい。

さて、と。麗蘭先生は鑑定終わったかしら。

でも、何で私なんかに声をかけてくれたのかしら。本当に分からない。

悪いことじゃないと良いんだけど……。

藤本さんに挨拶をして、麗蘭先生のブースを覗いてみる。

「ああ、フレイア先生。待たせてごめんね。今、支度するから。」

ちょうど麗蘭先生は、占い道具をまとめている最中だった。

麗蘭先生の占いは“ズバリ当てにいく”辛口スタイル。東洋占いに精通しているらしく、手相と四柱推命の併せ技でファンも多い。占い業を始めてかなり経つらしいけど、年齢不詳だ。

「お待たせ。じゃあ、近くの喫茶店にでも行こうか」

『そうですね、そうしましょう』

――占い館を出て、女占い師が2人で喫茶店へ。なかなかこんなシチュエーションないわね。

「さて、わざわざ時間を作ってくれてありがとう。ちょっとさ、フレイア先生と話がしたくて。」

『いえいえ、とんでもありません。私なんかで良いんですか? 他にもいろんな先生たちがいらっしゃるのに』

「フレイア先生が良いんだよ。マトモだからね」

意外な答えだった。

「意外って顔してるね。先生はさ、心からお客さんのことを考えて、いつも丁寧に鑑定してるじゃない? この商売、稼ごうと思えばいくらでもやり方はある。でも、占い師としての“倫理”っていうかさ、そういうのを大切にしてるって感じたからさ……」

『いえ、そんな』

「でね、実は今悩んでることがあるのよ」

麗蘭先生の悩み……、一体どんな悩みなのかしら。

「私、占い師を引退しようかと思ってさ」

『えっ』

衝撃だった。先生はいつも予約一杯の人気占い師。今、辞めるなんてもったいないわ。

「自分の占いに自信がなくなってきた。そう言ったら、先生は信じる?」

『自信、ですか。私のほうが、よっぽど技術に自信ないですけど』

「いやいや。私も長いことこの仕事やってるけどね。何ていうかね、当てることが必ずしも客の幸せに繋がらないのかもしれないと感じることがあってさ」

分かる、気がするけど……。

『でも、私たち占い師はまず“当てる”ことが土台にあると思います。あとは、お客様次第なところもあって、そこを後押しすることしかできないのかなって』

「そうだね」

『だから、麗蘭先生は“占い師”としてとても良いお仕事をされているんじゃないでしょうか。辞める必要はないと思いますけど……』

「私もね、たくさん勉強して、修行を積んで、“当たる占い師”であるように努力をしてきたよ。でも、結果が分かっていても避けられないことってあるじゃない。これから降りかかるであろう災難を知らせることはできても、なくしてあげることはできやしない。その無力感に耐えられなくなっちゃったんだよね」

ああ、この人は――

本当に占いのことを勉強して、お客様の幸せを考えているんだなぁ。

「その点さ、先生の鑑定は、お客さんを笑顔にすることを大事にしてるじゃない? それって、占い師として1番大切なことなんじゃないかなと思うよ」

『でも私は、先生のように修行も積んでいないし、勉強だって足りていません』

「“ハートの問題”なんだよ。フレイア先生は偉いと思うよ。私はね、“当たった!”って驚く顔は見てきたけど、“先生のお陰で幸せになれた”っていう声は、あまり聞いたことがないのさ。だけど、占い師なんだから、心の慰めや嘘は要らないじゃない」

少し寂しそうな麗蘭先生の表情に、胸が詰まる。

「私は占いを生業に、これまでおまんまを食べさしてもらってさ、もう十分満足しているところもあるのよ。だからね、来月いっぱいで閉業。それを先生に聞いてもらいたかったのよ。先生は多分、これからどんどん人気がでるよ。私には分かる。……だから話を聞いてもらいたかったんだ」

――思いもかけない人気占い師の言葉に、複雑な気持ちになる黄昏時だった。

魚座 第2章 終



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【今回の主役】
和辻花子(フレイア華) 魚座33歳 占い師
既婚者であり、夫に和辻哲夫、子供に和辻長輝(9歳)と和辻夢叶(5歳)がいる。家庭と仕事の兼ね合いで悩みつつも、占い師としてそこそこの人気を得ている。しかし、あるお客の鑑定をきっかけに、占いの限界を感じて心理カウンセラーの資格を取ろうと考える。

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