【不倫の代償】重たく切ない気持ち…|12星座連載小説#50~双子座5話~

文・脇田尚揮 — 2017.4.4
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第50話 ~双子座-5~


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夕方には明日の準備も終え、今月出演する番組の仕込みも進んだ。

仕事の段取りは良い方だと思う。いつもコーヒーを2杯飲み終える頃には大方の仕事を終えている。

今日は定時で上がれそうだ。予定通り、“自分磨き”にあてようかな。

『お疲れ様です』

「お疲れっス」

仕事仲間に軽く挨拶をし、アナウンス室を離れる。

20階以上のフロアからなる局のエレベーターは、社員でごった返している。これだけが、この局で嫌なところかな……10分間ガマンすればいいんだけど。

……義久さんは、きっとまだ仕事中ね。

――チーン

1階に着いた。ICチップの付いた社員証をゲートにかざし、警備員に軽く会釈をする。

今、私が勤務しているテレビ局は、1階フロアが一般の方向けのアミューズメント施設として解放されている。番組キャラクターや人気マスコットのパネルが並べられ、ちょっとしたカフェなども併設されており、週末なんかはそこそこ賑わっている。

大きなエントランスを通り抜けて、ロータリーでタクシーを拾った。行き先は“もちろん”銀座。

ショッピングをするときは、質の良いものを少しずつ買うようにしている。

昔は比較的手頃な値段のものを何点か買って、あれこれコーディネートを楽しんでいたけど、結局“安物買いの銭失い”だと気づいて……それからは、高級志向になったわ。

人様の前に出る仕事だからこそ、それなりのものを身につけておかなきゃ恥ずかしいし。

最近では、私もだんだんと“女子アナ”として認知されてきているようで、電車に乗ると向かいの席の人たちがコソコソ話を始めたり、某インターネット掲示板なんかに書き込みをされたりもしている。やれスポーツ選手と熱愛だの、バストが何カップだの放送事故だの、どれもくだらないことばかり。

……幸いにも不倫していることは、まだどこにも上がってないみたいだけど。

夕陽に照らされた街並みを、タクシーの中からぼんやり見つめる。

これから私たち、どうなっちゃうんだろう。もしもこの関係がバレたら、義久さんにも迷惑を掛けることになる。

そんな地雷を抱えたまま、これから先もずっと彼と一緒にいられるわけがない……。

でも、そんな刹那的な恋だからこそ美しくて、止められない。終わりがあると分かっていながらも、このまま2人だけの世界に没頭してしまうのかしらね。

――百貨店が立ち並ぶ景色に変わってきた。

『ここでお願いします』

タクシーを降りて向かったのは、エステサロン。週1回のペースで全身をケアするのが、私の習慣。

サロンに入ると、流れるようにスムーズな対応。今日は平日だから待たされることもないし、ここ1年通ってるからか、“顔パス”同然の扱いになってきた。……こういう扱いが心地いい。

――施術用のベッドの上で至福の時間を過ごす。

女性スタッフから身体を優しく揉みほぐしてもらっていると、義久さんとの夜を思い出す。彼に身体を触られるのは、とっても嬉しい。他の男じゃダメなの。彼だから良いの。

……少し微睡む。

「お疲れ様でした」

身体に塗られたオイルを拭き取られている間に、意識が戻ってくる。身体が軽くなり、まるで綿毛のような気分だ。

定期的なメンテナンスはやっぱり必要だわ。女である以上、常に女であることを意識しておかなくちゃ。

なんて、都合のいい理由をつけながら、ジュエリーショップに向かう。

外はもう暗くなっていた。昼間は凛とした銀座の街並みも、夜になるとどこかエロスを感じさせるから不思議ね。

そうだ! 義久さんにメールしよう。この時間帯ならもう大丈夫よね。

「今日もお疲れ様です。今、私は銀座でショッピング中です。義久さんはもうすぐ仕事上がりでしょうか?」

その後に続けて

「義久さんと一緒に過ごせるご家族が羨ましいです。」

と打ったけど……その文章は消してから送信した。

危なかった。あやうく“嫌な女”になりかけた。

重い女にだけはなりたくない。彼の家族のことを考えるのはダメ。惨めな気分になるし……何より、彼を悩ませるようなことしか浮かばない。

気持ちを切り替えられないまま、少し重い足取りでジュエリーショップへ。

『せっかくエステに行ったのになぁ……』

彼のことを考えると、温かい気持ちが胸の奥から湧き上がってくるのと同時に、鉛を飲み込んだように重たく切ない感覚に襲われる。

宝石にでも癒されよう。

「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」

ショップの店員から声を掛けられる。

『小粒ダイヤのネックレスはありますか?』

今日のお目当ては、ダイヤモンド。アクアマリンやアメジストといった“色味”のついたジュエリーは、若いうちこそ魅力的に感じられるけど、結局最後に行き着くのは無色透明のダイヤ。パールも魅力的だけど、まだ似合う年齢じゃない。

「かしこまりました。それでしたらこちらなどはいかがでしょう……」

店員に促されるまま、ショーケースの中を覗き込む。

一際輝きを放つアイテムが、そこにはあった。

『全然輝きが違いますね!』

「お目が高いですね。こちらバイヤーがイスラエルから直接買い付けてきたルースを、必要最小限の加工でネックレスにしたのです」

息を飲むほど綺麗だった。

もし、もしも、こんなダイヤモンドを義久さんからプレゼントしてもらえたら……。

――そんなことを考えてしまう自分を、少し浅ましく感じた。



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【今回の主役】
江崎友梨 双子座25歳 アナウンサー
23歳の時にアナウンサーとしてTV局に入社。有名大学出身だが1年浪人している。ハイソサエティな世界に憧れを抱いており、自分を磨く努力も怠らない。現在、同じアナウンサーでもあり、上司である新垣義久と不倫関係にある。当初は踏み台にしようと考えていたが、だんだんと彼に惹かれキャリアと恋の間で、悩み揺れる。

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