不倫に溺れかけた「哀れな女子アナ」|12星座連載小説#49~双子座4話~

文・脇田尚揮 — 2017.4.3
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第49話 ~双子座-4~


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『――それでは、今日のお天気です』

ふぅ……朝のニュースの山場が終わった。あとは2分トークを残すのみ。今日も問題なく終えることができそうね。

気象予報士の吉田さんが天気の説明をしていく。

昨夜の雨とはうって変わって、今日の東京は晴れ……か。

―――昨夜のことが思い出される。

義久さんは、今頃違う番組の台本に目を通しているのかな……。

あれから私は帰宅し、泥のように眠った。

ベッドに入ってしばらくは、まぶたの中で義久さんと彼の家族が仲良さそうにしている光景がチラチラ浮かんで苦しかったけど。

どんなことがあっても、次の日まで持ち越さないのが私。この“女子アナ”という立場だけは、守ってみせるわ。

天気予報が終わり、映像がスタジオに切り替わる。と、同時に私の意識も切り替わる。

『今日は、すっかり腫れて気持ちのいいお天気ですね~』

「はい、昨夜の雨が嘘のようですね」

『それでは、今日も良い1日を。行ってらっしゃい』

深々と頭を下げる。

……3、2、1、

「はい!カット!」

今日の放送も無事に終わった。

「江崎さん、お疲れ様。今日も良かったよ~」

プロデューサーの鷹場さんが声を掛けてくれる。

『いえいえ、スタッフの皆さんのお陰です!』

カメラ、音響、その他スタッフの皆さんに挨拶し、最後に男性キャスターの平岡さんに声を掛ける。

『平岡さん、今日もお疲れ様でした』

「ああ、江崎さん、お疲れ様」

スタジオを出ようとした時。

「そういえばさ」

平岡さんから呼び止められた。

「新垣さんと仲良いんだね、江崎さん」

――えっ……! 私たちの関係、知られてる!?

一瞬背筋が凍った。

『ええ、はい……いつも良くして頂いてます』

無難に返す。

「あいつは後輩の面倒見がいいからなぁ。ホント、いい奴だから色々と教えてもらうと良いよ」

ニコニコして平岡さんが手を振る。

……バレて、ない?

不倫をしていると、つい周囲の人達の言葉や態度を深読みしてしまう。何か別の意味があるんじゃないか、カマかけられているんじゃないか。

何気ない言葉にも疑心暗鬼になり、構えてしまう。

義久さんと“男女の関係”になってからというもの、毎日が窮屈だ。

最初は義久さんを、自分のステップアップのために使うはずだったのに、今では、私の中で彼の存在が大きくなりすぎている……良くない。

仕事中は、彼も私も一切メールのやり取りはしないようにしている。だから、スマホのチェックも不要だ。

さて、私も気持ちを切り替えなくちゃ。

マイカップにコーヒーを注ぎ、デスクに戻る。

――コトン

まずは明日の原稿のチェックだ。あと、今月は出演番組2本ね。

女子アナとしてのキャリアがスタートしてから2年……か。申し分ないくらい順調。

ずっと夢見てきた、番組のレギュラー進行役も、この調子でいけば手が届くはず。

頑張らなくちゃ!

……もうあんな惨めな想いしたくない。

―――高校3年の冬。大学入試に失敗した。

それは私にとって、初めての挫折経験だった。

中高一貫教育の女子高に在学していた私は、いつも上位の成績をとり続け、部活でも成果を出して……まさに、親や先生の期待に応える“優等生”。

同級生から憧れられ、先輩からは一目置かれ、後輩からも慕われていた。

そんな“完璧な自分”を保ち続けていた私にとって、これ以上の衝撃はなかった。

今まで築き上げてきたものが、一気に崩れ落ちた瞬間だった。

私は“負け組”として予備校に行くのが嫌で、自宅で1年間浪人生活を送った。

すべての友達と連絡を断ち、ただ黙々と自分の夢に向かって勉強を続ける日々。今となっては“空白の1年”だ。

でも、そんな日々を経験したからこそ、私は誰にも負けない強い心を手に入れた。

有名大学に進学し、ミスコンで優勝。男たちにもチヤホヤされたし、教授にも気に入られ、最後は女子アナになって……。

今の自分を手に入れた。自分の輝くステージをようやく掴んだの。

なんて、思い出に浸るのもそこそこに、仕事に打ち込む。

これが終わったらエステに行って、それからジュエリーを見てまわろう。

いつまでも魅力的なレディであり続けたいもの。自分磨きも怠るわけにはいかないわ。

でも……、最近の私は変だ。

“全国の視聴者の江崎アナ”ではなく“義久さんの友梨”でいたいという気持ちが勝ってきている。不倫していることが世間に知られたら、今の立場すら危うくなるというのに、私は義久さんとの関係を清算できない。

他にも、男性との出会いはあるはずなのに……どうして彼じゃなきゃいけないの。

ハイソサエティな世界を夢見て、それに相応しい自分でありたい……と願う私が、それとは全く違う方向に進んでいる。

それを頭では分かっているのに、止めることができないのがもどかしかった。



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【今回の主役】
江崎友梨 双子座25歳 アナウンサー
23歳の時にアナウンサーとしてTV局に入社。有名大学出身だが1年浪人している。ハイソサエティな世界に憧れを抱いており、自分を磨く努力も怠らない。現在、同じアナウンサーでもあり、上司である新垣義久と不倫関係にある。当初は踏み台にしようと考えていたが、だんだんと彼に惹かれキャリアと恋の間で、悩み揺れる。

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