【“逆”お持ち帰り…!?】気になる30歳童貞オトコ|12星座連載小説#43~天秤座4話~

文・脇田尚揮 — 2017.3.24
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第43話 ~天秤座-4~


前回までのお話はコチラ

「こちらカシスオレンジになります」

店員が私のドリンクを運んできた。

――と同時に

「ウェ~イ、恭子にかんぱ~い!!」

祐太が音頭をとり、他の2人もドリンクを持ち上げた。私もそれに合わせて

『アリガト~!』

って、グラスを持ち、顔の横にピタッとくっつけてみせる。

「恭子ちゃん、ノリ良いね~! 俺、そういう女の子大好きだわ~」

“髪切り屋”が、馴れ馴れしく私の肩を叩いてくる。

オゲレツ! あ~も~ウザッ。こういうタイプは最初から論外。下心が見えすぎてシラけちゃうわ。

オトコなら、もっとこうスマートにしてくれないものかしらね。

「恭子ちゃんってさ、若いよね~? 年いくつ? 俺は26」

コイツ……デリカシー無さすぎ。いきなり歳の話をするなんて、本当にイヤ。女の子に年齢聞くとか、ありえないわ。しかも、年下って……。

「お!恭子、ほら、ローストビーフきたぜ」

不穏な空気を察したのか、祐太が気をきかせてくれる。こういう気遣いができるから、祐太とは友達を続けていられる。オトコ友達は選びようによっては、強力な武器になってくれるからね! 助かる。

……と、今日の“気になる”メガネ君は、さっきから一言も発してないし飲んでもいない。ホント、典型的な“草食男子”って感じね。

モテないわけではないんだろうけど、この感じじゃ女の子はなかなか近寄りにくいかも……。

『薫クン、さっきから飲んでないね? お酒苦手?』

私から切り出す。

「えっ、あっはい、ボク飲むとすぐ眠くなっちゃうんで……」

……調子狂うわ。それじゃあ、何で飲みに来たのよ~。

こんなにツレない子も珍しいわね。もしかして……ホモ?

「薫クンてさ、普段何してんの?」

……チャラ男が頬杖をつきながら、メガネに話しかけてきた。

「ボクは自宅で、デザインなどの仕事をしています」

「へぇ~、在宅なんだ。そしたら逆にプライベートの時間とかないんじゃん?」

「まぁ……そうですね。いつも自由といえば自由ですが、仕事といえば仕事ですかね……」

何とも言えない空気だ。私がメガネ君に気があると勘づいたのか、ロン毛がやたらと絡み出した。

もう! 男ってすぐにこうやってマウンティング始めるんだから……。第一印象で、私の“オキニ”は決まってるって言うのに。

「つーかさ、薫クンって……もしかして“童貞”?」

……うわ、露骨な質問。

何でこう“ヤったのヤらないの”を気にするんだろう。“何人斬り”とか自慢げに語る男って大嫌い。

女側からすれば、変に経験積んでいる男子より、童貞の方がよっぽどマシだわ。こっちが教えてあげるってのも悪くないし。

エッチに自信がある男ほど、「気持ちいいだろ?」って勘違いして、痛いばかりのプレイとかしてくるし。演技して付き合ってあげているだけなのに、笑っちゃう。ロン毛なんかまさにその典型ね。

「……はい」

正直すぎ! 正直すぎるよぉ~カオル君!

そこは「秘密です」くらいで、流さないと空気悪くなっちゃうでしょ。

「まぁまぁ、薫は優秀な奴なんだぜ。これでも有名私大卒でいい仕事するから、稼ぎも良いし……な、薫?」

「いや、別にそんなことないよ…」

ほほう、高学歴でなかなかの収入かぁ。よく見たらルックスも悪くないし…う~ん良いかも。

『へ~! ていうか、さっきから気になってたんだけど、薫クンて何歳なの?』

気になる質問を振ってみる。こちらは振られたら嫌な質問だけど、オトコに振るのはアリ。これは女の特権ね。

「今年で30歳になります」

―――“ピキーン”と音がするくらい場が凍った。

どっからどう見ても22、3にしか見えないこの童顔メガネ君が、実はこの中で一番年上ってオチ?

……で、童貞。なにそのレアキャラ……! 逆に興味深々だわ!

それから微妙な空気のまま4人の時間が過ぎ、解散の流れになった。

取りあえず、2人とLINEを交換。もちろん、ロン毛は即ブロックするけど。

う~ん、今日は、この“薫さん”のこと、もう少し知りたいな……。

「じゃあ、俺たちコッチだから、またな恭子」

「また飲もうね~恭子ちゃん!」

「それじゃあ。」

申し訳なさそうな祐太と、ブンブン手を振るロン毛、そして……俯き加減な薫さん。それをニコッと笑顔で見送る私。

『……そろそろいいかな』

3人の姿が見えなくなってから、薫さんにLINEを入れる。

“薫さん、さっきはありがとうございました。私、ちょっとデザイン関係のことで悩みがあって……もし良かったら、今から少し相談に乗って頂けませんか?”

あの手の人はダイレクトに誘っても、たぶんムリだから……。でも、仕事の相談に乗ってもらう体ならイケるかな。

……まぁ、それでも五分五分だけど(童貞だし)。取りあえずスタバでスタンバって、様子見よ。

それから数分後。

“こちらこそ、ありがとうございました。何か私でお役に立てるのであれば、相談に乗りますよ。今からですか? もう遅いですけど”

薫さんから返信だ!

“今、私はスタバです。もしよければお願いできますか?”

送信っ、と。

2人きりの二次会への誘い出し方には、多少自信がある。



【これまでのお話一覧はコチラ♡】

【今回の主役】
佐々木恭子 天秤座27歳 アパレル店員
センスがよく整った容姿の女性。男に困ったことがなく、広く浅く男性と付き合う、いわゆる“リア充”である。将来の夢は玉の輿に乗ることで、毎週タワーマンションで催される会員制パーティー『ロイヤル・ヴェイル』に参加している。仕事仲間からは陰口を叩かれているようである。

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