私、追い詰められてる?不吉な夢…|12星座連載小説#41~水瓶座5話~

文・脇田尚揮 — 2017.3.22
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第41話 ~水瓶座-5~


前回までのお話はコチラ

布団に入ると、好美が抱きついてくる。

「レナレナ、あったかい♡」

彼女の頭を撫でながらも、頭の中は作成中のアプリのことで一杯だった。

明日は営業の三橋と一緒にテレビ制作会社と顔合わせ……か。

アプリのイメージはできているけど、まだ上の許可が取れていないからな。中身についてはまた今度詰めることになるかな。

CMを流す時間帯やら、どういった層に当てていくか、明日は面倒臭い話がメインだろう。そこらへんは三橋に任せておこう。

あ~、早く中身を練って企画書通してーなー!

スヤスヤと隣から妖精の寝息が聞こえてくる頃には、私も眠りかけていた。


―――「こんな企画じゃ通せないよ、中野さん」

チャラい社長が、ろくに目も通していないくせに、私の企画を一蹴する。コイツ……いつもその時の気分で、OK or NGを決めるからな……クソッ! もっとちゃんと見ろよ! 見てくれよ……。


『……ハッ』

夢……か。まだ外は暗い。横で好美が幸せそうに眠っている。今、何時だ? ゴソゴソと枕元のスマホを手繰り寄せる。

……パッと点灯したスマホ画面が眩しくて、目を細めた。んん……、4時42分か。

なんとなく落ち着かなくて……、ウォーターサーバーの水を2杯一気に飲み干して、身体を目覚めさせる。

……さっきの夢は、なんだったんだ。胸糞ワリィ……。

頭の中のモヤモヤを拭い去るかのように、企画内容を書き出していく。もちろん、好美を起こさないように、キッチンのテーブルで、だ。

昨夜のヒラメキを反映させつつ、人間関係やら相関図を描いていく。これが通んなかったら、また一からやり直しだ。アイディアはいっぱいあるけど、私はこの内容が気に入ってんだ。一発OK狙いにいく!

――それから2杯ほどコーヒーを飲んで、トイレに行きたくなった頃はもう8時。

目覚ましがわりのTVの音に、好美が起きてきた。

目覚まし音が苦手な好美に合わせて、いつも8時にテレビがつく設定にしてあるのだ。ニュースキャスターが、今日も普段と変わぬ口調で何か喋っている。

「レナ~起きてたの~?」

『おはよ! どうも仕事のことが気になってさ』

「超・早起きじゃん。今日も仕事でしょ?」

『あぁ、今日はちょいと打ち合わせが入ってて』

そろそろ着替えなきゃだな。企画内容を書き出したノートをバックにしまい、身支度を始める。

『今日1日、ヨッシーはどんな感じ?』

「んー? 私はお家でブログ書いたり、アフィやったりの1日だよ~」

『OK、今日も遅くなると思うから、帰りは連絡する。』

好美は典型的な在宅ワーカー。それでいて、割りといい稼ぎしてんだから、凄いわ。

一部のコアなファンには、「ちゃあみぃはネ申」とか言われてっからなぁ。コイツのブログはカラフルで、嫌味がなくて、そしてどこか優しい。ファンが付くのも頷ける。

「絶対だよ!」

『うむ。じゃあ行ってくる』

“ばいばーい!”と手を振る好美に、ほほ笑みかけて会社へ向かう。

デスクに着いてすぐに、朝ノートに書き出した内容をWordに打ち込んでいく。

画像なんかも引っ張り出してきて……添付。昼までに、社長に目を通してもらえる状態に仕上げておきたい。

デスクの引き出しにしまってあるシリアルバーを頬張りながら、カタカタと打ち込み作業を続ける……。

ここは相変わらず、無機質なキーボード音しか聞こえない空間だ。私もその“音”を生み出す1人なんだけどさ。

みんな夢や理想を持って仕事してんだろうけど、地道な作業の連続。

実際に、自分の想いをカタチにできるのは、ほんのひと握りのひとなんだよ。

完成した資料を担当者に一斉送信、っと。

終わった。

あー疲れた、煙草でも吸いに行くか。

普段、煙草は吸わないのだが、仕事の区切りや重要なタスクが終わったときに、1本だけフカす。好美が怒るからニコチン・タール少なめのヤツ。

頭に霧がかかったようにボーッとする。

……そりゃそうだ。昨日から、ずっと頭フル回転させてんだから。

『フ~』

煙草の白い煙が、戦国時代の合戦の狼煙みたいに見えてしまうあたり、私もかなり“病気”だな、と笑えてくる。

喫煙コーナーで一息ついてると、

――ポンポン

「せ~んぱい」

後ろから肩を叩かれる。

……三橋だ。

『おう、三橋。今日は6時に虎ノ門だったよな』

「はい! ヨロシクです」

『ミーティングがてら、昼はどっか食いに行くか?』

「そうですね!」

『じゃあ、下に降りといて。あと5分したら行くわ』

「はーい」


煙草を吸い終え、エレベーターに乗り込む。三橋に少し遅れて1階へ。

『お待たせ』

「今日はパスタの美味しいお店でどうです?」

上目遣い気味に聞いてくる。

若手営業だけあって、三橋のチョイスは結構イケてるからな。

そういやぁ、昨日は好美のサンドイッチ、今日はシリアルバーしか食ってない。お腹が急に減ってきた。

『OK、良いよ。』

「それじゃあ決まりですね!」

―――イタリアンは、期待を裏切らないなかなかの味だった。

『美味しいな、ここ』

「あはは、先輩。食べるの早い~」

オリーブオイルたっぷりのペペロンチーノで、唇がテカテカになった私を見て、三橋が笑う。三橋のカルボナーラはまだ、半分も減ってない。

『お前が食べるの遅いんだよ』

照れ隠しに、悪態をつく。

『でさ、今日のTV関係者との顔合わせ、どんな感じよ?』

口を拭きながら尋ねると、“待ってました”とばかりに、三橋が得意げな顔で資料を出してくる。

……さすが。コイツのこういうトコ好きなんだよな。



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【今回の主役】
中野怜奈 水瓶座26歳 IT開発事業部
個性的で変わり者、我が道を行くタイプ。協調性に欠けているが、時代の先を読む“先見の明”があるため、社内での評価は高い。女子向けアプリ会社『キュートキッチュ』の新作指揮を任される。アイディアウーマンであるが、縛られることを嫌う一匹狼。後輩の三橋奈美は良い相談役。実はバイセクシュアルの性向があり、出会い系アフィリエイトで知り合った池谷好美と同棲している。

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