会社を辞めて、こうなった。【第26話】 バークレーで受けた初中間テスト。結果は90点と101.36点!

2015.10.19
  【第26話】バークレーで受けた初中間テスト。結果は90点と101.36点! 絵本で勉強していた私が…。 さて今学期、私がバークレーで受講しているのは大学生とと...
 

【第26話】バークレーで受けた初中間テスト。結果は90点と101.36点!

絵本で勉強していた私が…。

さて今学期、私がバークレーで受講しているのは大学生とともに心理学入門と統計学の授業。そして所属しているプログラムの授業です。あとは毎週行われる公開講義を聴講し、研究室で大学院生のお手伝いをしています。

バークレーに来て最初の1か月は、先生が何を言っているのか半分以上わかりませんでした。授業前には予習、授業中は全神経を講義に向け、授業後はレコーダーで録音した講義を再び聞き直してノートをとって復習…。それだけやっても理解できるのは半分程度です。特に悲惨なのが、“R”というソフトを使ってプログラミングを組みながら統計を学ぶ授業。統計学というものにふれるのも初めてだし、プログラミングって一体どういうこと?! しかも英語です。3か月前まで絵本で英語を勉強していた私にとってはあまりの急展開ぶりに卒倒しそうになりました。

履修を落とすべき?

Grateful Gutters, “有難い溝”と訳せばまるで今の自分の人生を表す比喩のようです。
Grateful Gutters, “有難い溝”と訳せばまるで今の自分の人生を表す比喩のようです。

そこで現状をプログラムのカウンセラーに相談すると「DROP(履修を落とす)せよ。英語がわかるようになってから履修したら良い」とのアドバイスが。アメリカでは大学でとった悪い成績は後々まで響き、大学院を志願するときに致命傷となるからだそうです。はてさて履修を続けるべきか、落とすべきか。これには大変悩みました。何単位とっても授業料は変わらないし、多額の授業料を払いながらも英語での授業に不安だった私は現時点ですでに大学生の授業に関しては2科目しか取っていないからです(他のプログラム受講生は3科目取っています)。

そんなときです。私がアメリカに来るきっかけとなった映画『happy-しあわせを探すあなたへ』に出ていたカリフォルニア大学リバーサイド校心理学部教授のソーニャ・リュボミアレスキー博士がバークレーへ公開講義にやってきたのです。幸福についての講義だったのですが、そのなかで教授は「今月が最後の月だと思って人生を生きなさい」という言葉を引用されました。講義の後で「もし今月が人生最後の月だったら、私は履修を落としたい?」と自分の心に尋ねてみました。答えは「NO」。良い成績を取ることはもちろん大切なことだけど、私とって一番大切なのはチャレンジすることです。不器用でもパーフェクトじゃなくても全力をかけて一歩を踏み出す、それが私の挑戦。ほかの人にとって一番大切なことが必ずしも自分にとって一番大切なこととは限らないと腹をくくることにしました。そしてアメリカ人学生に比べて5倍頑張っても半分もわからないのなら、10倍頑張れば良いだけだ! このシンプルな公式に気がつき、がむしゃらに勉強することにしました。

初テスト! 結果は?

週末のキャンパス、カフェテリアが閉まっているので木をベンチ&テーブル代わりに。友人から送られてきた味付け海苔の味に涙です。
週末のキャンパス、カフェテリアが閉まっているので木をベンチ&テーブル代わりに。友人から送られてきた味付け海苔の味に涙です。

そこで授業中は300人規模の教室のなかでもっとも先生の声が聞こえ、プロジェクターが見やすい2列目に座る。予習・復習は念入りに行い、教科書を何度読んでもわからない箇所はインターネットで検索し、日本語の情報にもアクセスしてみる(良い時代に生まれた!)。それでもわからない場合はオフィス・アワーを利用して先生や大学院生に質問へ行く。またバークレーにはスタディグループという先輩大学生が行う塾のようなものがあるのでそれにも申し込みました。すると大学生じゃないからNGだという回答がきたのですが、教授に頼み込み教授から直接スタディグループの長に頼んでもらうことで晴れて参加できるようになりました。正直言えばどれだけ勉強しても完全にはわからない自分に嫌気がさすこともありますが、クサクサしだしたら学校のジムに行ってランニングマシンで走りまくる! あとは至らない自分でも少しは意味があると思えるようにと一日一善を心がけました。そして臨んだ初テスト! 結果、心理学入門は90点。統計学はなんと101.36点(チャレンジ問題に対してダイイングメッセージとしか思えない意味不明な解答らしきものを残した結果、太っ腹な先生がボーナス点をくれました)でした。

6週間たった現在、教授が授業中に話していることの7割ぐらいは理解できるようになりました。でもまだアメリカ人のように完全にはわからない。集中力が切れると何を言っているのか全くわからなくなるし、少しでも予習・復習を怠ると全くついていけなくなるという危うさもあります。教室の雰囲気を和らげようと発する教授のジョークがわからず爆笑の渦の中、ひとりナーバスになることだってしばしばです。教科書を読むのも恐ろしく遅いし、マークシート式のテストなら答えられるけど課題についてエッセイを書きなさいと言われると途端に頭が真っ白になったりもします。

目の前のことに集中する。

自由に本を貸し借りできる路上図書ボックスがそこかしこに。本を愛する文化的な街、ベイエリアならでは。
自由に本を貸し借りできる路上図書ボックスがそこかしこに。本を愛する文化的な街、ベイエリアならでは。

正直言えば、今はわからないことがわかるようになることが楽しくて勉強している感じです。編集者の端くれだったのにもかかわらず、語学の壁で自分を正しく表現することすらままならない悔しさもバネになっています。でも必死に勉強した結果、その先がどうなるのかは全くわからない。学力的な意味でも経済的な意味でも大学院に進むことができるのかも不確かです。ひょっとすると全く違う方向へ進みたくなる可能性だってある。さらには希望通り勉強を続けることが出来たとしても、この先どういう形で生活していけるのかも全くわかりません。そんなふうに将来のことを考えると不安になって気が散ってしまうので、とにかく今は目の前の勉強に集中することと自分に関わる人たちへ誠実に接することを心がけることにしました。今勉強できることへの感謝を噛み締めながら。

先日学校帰りにバスを待ちながら、ふと思ったんです。このまま結婚もせず、子どもも持たずにひとりで前進し続けるのかもなぁって。ちょっと寂しい人生ですよね、笑。でも不思議とそれもまぁいいかなって思えたんです。大学を卒業し就職して経済的に自立して、結婚してそして離婚して…。アメリカに来るまでは自分のことを自立できていると思っていました。でも今思えば、私はいつもどこかで自分の人生を誰かに承認してもらおうとしていたのかもしれない。毎日違う洋服を着てキレイにお化粧をして、ほかの人にOKをもらうことで初めて自分の価値を測れていたのかもしれない。希望通りの仕事ができれば満面の笑み、そして出来ないときは誰かのせいにしてただ逃げていただけかもしれない…。今ようやく精神的な意味での自立の一歩を踏み出したのかもしれません。

人生、これでいいのだ。

小学生時代からの親友から。焼けた肌に合うロン・ハーマンのオートミール色のTシャツ。次に彼女に会える日までに着倒してクタクタにする予定です。
小学生時代からの親友から。焼けた肌に合うロン・ハーマンのオートミール色のTシャツ。次に彼女に会える日までに着倒してクタクタにする予定です。

ふと小学生からの友人に苦学生生活でいかにダサくなっているかと笑い話をすると、「土居彩が土居彩で在り続けられるように」とオシャレギフトが届きました。ヨガを通して人生の貴重な時間を共にした友人からは麺類、おかゆ、スープなど大量の食材が。私の好みを知り尽くした母からも選りすぐりの佃煮や和菓子が送られてきました。数か月前の自分だったら「あぁ、贈り物代に加えて6千円も送料をかけさせちゃったよ…」と罪悪感に苛まれていたでしょう。そしてお返しができない自分の至らなさにも辛くなったと思います。でも今は心から「ありがとう!」って思えるんです。ギフトを受け取るということはある意味彼らに経済的に依存していることになるのかもしれません。けれども不思議と素直にその好意を受け取れるようになったんです。自分の人生を「これでいいのだ」と思って、もう自分以外のほかの誰かになろうとはしない覚悟が出来たからかもしれません。

See You!

早朝のウェイトトレーニング室には屈強な男子と私しか居ません…。
早朝のウェイトトレーニング室には屈強な男子と私しか居ません…。

 

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PROFILE
土居彩
編集者、ライター。14年間勤務したマガジンハウスを退職し、’14年12月よりサンフランシスコに移住。趣味は、ヨガとジョギング。ラム酒をこよなく愛する。目標は幸福心理学を学んで、英語と日本語の両方で原稿が書けるようになること。