会社を辞めて、こうなった。【第15話】 不運は幸せの入り口。
長年勤めた出版社を辞めて、なんの保証もないまま単身アメリカに乗り込んだ女性が悩みながら一歩一歩前進して、異国の地で繰り広げる新鮮な毎日を赤裸々にレポートします。
【第15話】不運は幸せの入り口。
先週の盗難事件から警察にポリスレポートを提出しに行ったときのこと。
ちなみにポリスレポートとはどんな場所でどんなことがあって、何を盗られたかなどを警察に申請することです。日本とは違い、書類を処理する警察官たちと申請者は分厚いガラス板によって区切られています。列に並ぶ申請者たちはみんなプリプリとお怒りモード。英会話の練習にと「どれぐらい並んでいるんですか?」と尋ねてみたら「君が並ぶ前からだよ!」との返事が。…スミマセン、静かに並びます。
「まったく、なんで仕事中にテレビを観る必要があるのかしら! だから時間がかかるのよ!」と別のご婦人もぶつくさ。ふと見れば、確かに警察官のデスク横に大画面の液晶テレビが。放送されているのは、アマゾンでサバイブするという内容のバラエティ番組です。ターザンとジェーン風のコスチュームを着た男女が狩りで生け捕った蛇の皮をはいで、調理をしています。そのテレビ映像とサンフランシスコというコンクリートジャングルで生き延びようと必死な列を並ぶ人たち…。その構図がなんともシュールで「これって、現実かしら?」と思ってしまった私です。
ドン底気分になり、寝込む。
実はこっちに来る前に、何かあったらどこにいても必ず駆けつけると言ってくれた人がいたんです。でもストーカーのときも、ホームステイ先を突然追い出されたときも、今回の盗難事件でも来なかった…。先週はトラブル処理に追われて感傷に浸るヒマもなかったのですが、全ての事務処理を終えたとたん「今までの私の人生はいったい何だったんだろう…」「何を今まで信じて生きてきたんだろう」と寝込んでしまいました。真面目に通っていた語学学校までもサボってしまい「これからどうしたら良いんだろう…」と、ただただず~っと寝ていました。窓の外はよいお天気なのに!
けれど2日ほど経ったら死ぬほどお腹が空いたので、友達が贈ってくれた出汁でご飯を炊き、たらふく食べました。その後メールを確認すると「とにかく命があって良かった」「無事で良かった」と。そこでようやく気がついたんです。英語が出来ない、歳が若くない、仕事が無い、恋人が居ない、収入が無い…。今まで無いものばかりに目を向けていたということに。
でも私には「命があって良かった」と言ってくれる人がいる。この原稿を読んでくれる皆さんがいる。日本に居たときよりは英語が話せるようになった。健康な体がある。勉強できる自由な時間とお金がある。アメリカで生活している。
あるものだってたくさんあるんです。