会社を辞めて、こうなった。【第68話】何がウケて、どんな冗談がドン引きに? アメリカン・ユーモア世渡り術。

写真/文・土居彩 — 2018.2.18
ユーモアがスキルだとみなされ、社会的な評価を左右するというアメリカ。米CEOの98%がユーモアのセンスがある人を採用したいという調査結果があったり、大統領候補だって選挙戦での支持率を上げようと深夜のバラエティ番組でウィットに富んだ素顔を見せるほどです。心理学研究によればユーモアは4種類に分類できますが、日本とは違いアメリカでは少し気をつけなければいけないものも。こちらの人気トークショウや心理学の研究結果、実体験に基づくエピソードを紐解きながらお伝えします。

【土居彩の会社を辞めて、サンフランシスコに住んだら、こうなった。】vol. 68

98%の米CEOがユーモアのある人を採用したい。

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短期インターン先でお世話になった社長に「勤勉でユーモアがあるから」という理由で就職を打診してもらった際に、ユーモアのセンスが重大な採用基準になるというのも「ジョークじゃないか」と思いましたが、どうやらアメリカではそうではないようです。バークレーの講義でも、人気教授の授業では10分間に1回の割合で生徒を笑わすポイントがありました。英語がよくわからない私にとっては「何がおもしろいの?」と隣の席の人に教えてもらったりして、むしろナーバスになってしまうひとときでしたが……。

ユーモアがスキルとみなされ、社会的な評価も左右するというアメリカ。人材会社のHodge-Cronin and Associatesの調査結果によると、737名のCEOのうち98%がユーモアのある人を採用したいといいます。さらには84%が、ユーモアのある人のほうがいい仕事もするとも考えているのだとか。長年ユーモアについて研究してきたカリフォルニア州立大学ロングビーチ校のディビッド・アブラミス博士によれば、仕事に笑いを見いだせる人のほうがよりクリエイティブで生産的な仕事が出来、意思決定力があり同僚とうまくやっていけるとか。遅刻や病欠もユーモアのセンスが無い人よりも少ないとのことです。

ところでユーモア研究の権威であるロード・マーチン博士は、ユーモアには以下の4タイプがあると分類しています。

4つのユーモア スタイル

1. Affliative humor (親和的ユーモア) 冗談を聞いた人誰もが傷つかず、「おもしろい」と思えるたぐいのもの。目的は相手を笑わせたり、冗談を言い合うことで、他者との結びつきや仲間意識、幸せを深めること。妙な声色を使ったり、顔芸やダジャレもこのたぐいです。

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例えば短期インターン中に、社長のワークスペースがデスクから床に至るまで資料がダイナミックに散乱していたので、思わず唖然とした様子で見ていたら、睨みを利かした社長に「なんだね?」と言われてちょっと気まずい雰囲気に。機転をきかせて「……なんというか、美術家ジャクソン・ポロック的ですね」と返事したらお互いニヤリ。衝突を避けられたということがありました。ちなみにジャクソン・ポロックの絵の具缶から直接絵の具を滴らせて描くアクション・ペインティングとはこんな様子です。彼のワーキングスペースがどんな様子だったか、想像がつきましたか?(笑)。

2. Self-enhancing humor (自己高揚的ユーモア) 不都合なことが起こったり、ストレスフルな状況下で自分を寛大な態度で笑うというジョーク。映画『ライフ・イズ・ビューティフル』の主人公の態度はこれの極地ですね。

3. Aggressive humor(攻撃的ユーモア) からかいや嘲笑など他者への批判を含んだユーモア。暴力的な冗談です。下の動画は、「レイト・ショー」というアメリカの人気バラエティトーク番組のひとこま。たくさんのアメリカ人が見ている深夜番組ということもあって、大統領候補なども出演し、笑いをとって国民の好感度を高めることで選挙戦での支持率を増やそうとしたりします。日本の首相候補がそんなことをするなんて、ちょっと想像もつきませんよね。

さて、このなかでホストのステファン・コルバートが大統領就任後のトランプ氏を「あなたは、POTUS(The President of The United Statesの略。アメリカ大統領の意)ではなく、BLOTUS(Biggest Liar of The United Statesの略。アメリカ最大のペテンの意)だ!」となじったうえで、「あたまをひっぱたかれたゴリラが手話をしているみたいに話しますよね」と言って視聴者から笑いをとっています。これは代表的な攻撃的ユーモアの例です。

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4. Self-defeating humor(自己卑下的ユーモア) 自分のことを ”かわいそうな私“ と攻撃的な形で貶めて笑いをとるもの。いわゆる自虐ネタです。ウディ・アレンは、この手のジョークの神だと私は崇拝しています。

北米文化圏のアメリカ人やカナダ人を治験者とした心理学の研究結果では、1と2は好意的に受け取られるいっぽうで、3と4はひんしゅくを買ってしまう恐れがあるとか。

当然ユーモアがどれに分類されるかは、冗談を言った場面、発言者の状況、相手の受け取り方などによって変化します。ということは文化の影響もたぶんに受けるわけで、確かにアメリカで暮らすうちに ”笑ってもらえる“ ジョークと ”笑えない” ジョークが日本とアメリカで違うなぁと実感するのです。特に自虐ギャグは、要注意です。

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例えば瞑想合宿に行ったときに自己紹介をし合う機会があり、社長のときと同じくアメリカ人アーティストを用いて「言うならば ”宙ぶらりんの女” というところでしょうか。アメリカ人ノーベル文学賞受賞作家ソール・ベローの『宙ぶらりんの男』になぞらえまして」と答えると、ドン引きされてしまいました。「あなた、大丈夫……?」という感じで(笑)。謙虚さが美徳とされる日本では「私は傲慢な人間ではありませんよ」という意思表示にもなる自虐ネタですが、アメリカでは ”かなり自己価値の低い、無能な人“ とみなされてしまう恐れがある様子。使い方を十分に気をつけたいところです。

北米文化圏の人が高めたがる、”self-esteem”って?

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というのもこちらでよく使われるself-esteem(セルフ・エスティーム)という言葉あるのですが、それは自分のことをポジティブ・ネガティブの両面からどう捉えているのかという自己評価のこと。アメリカでは ”高いself-esteemを持つ(=自己評価が高い)” 人のほうが優れているという共通認識があります。このself-esteem信仰が加速したきっかけはというと、カリフォルニアでは1987年に州知事のジョージ・デュークメジアンがself-esteemが児童に及ぼす影響を研究するため245,000ドルもの年間予算を割いたのですが。その結果、高い自己評価を持つことこそが、よりストレス耐久力がある子どもを育み、社会問題を癒やすと強調し、「self-esteemを高めよ!高めよ!」と子育てや教育の現場でも取り入れられてきたのでした。

「その弊害なのでは?」と日本人の私は感じるのですが、大学の授業中でも課題図書を読んでいないのがバレバレな状態で、堂々と挙手して的はずれな意見を自信満々な様子で言いながら切り抜けるという学生たちを見かけました。しかも教授はそれに対して決して否定的なコメントをせず、「ナイス!」とむしろ授業への積極的な態度を評価するのです。

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SOUCE: Adapted from Hene&Hehman, 2003. From Gilvin, Keltner, Chen &Nisbett’s『Social Psychology 4th Edition』(W.W.Norton&Company).

これは文化間によるself-esteemスコアの違いを表したグラフです。一番左から、
日本で暮らす日本人
海外に行って北米文化に触れたことのある日本人
カナダに暮らして7年未満のアジア人(日本人以外のアジア人も含む)
少なくとも7年以上カナダで暮らすアジア人(日本人以外のアジア人も含む)
アジア系カナダ人二世(親がアジアからの移民)
アジア系カナダ人三世(祖父母がアジアからの移民)
ヨーロッパ系カナダ人の順番になります。

後半アジア人全てをひとくくりにしているところがいささか乱暴だなとも感じますが、右にいくほど、つまり北米文化の影響を受けるほどにself-esteemの値が高くなり、アジア系三世とヨーロッパ系カナダ人のスコアはほとんど変わらないことがわかります。アメリカではなく隣国カナダの研究結果ですが、北米文化に触れるだけでself-esteemの高さが変わるというのです。

ほかにもカナダ人は一度目の業務を成功したほうが二度目の業務に長時間取り組むけれど、日本人は一度目の業務を失敗したほうが二度目の業務に長時間取り組むという研究結果も。その理由はカナダ人(self-esteemの高さと個が重んじられる北米文化圏の人)は失敗したことを再認識すること(=self-esteemが下がること)を避けるけれど、self-esteemの高さよりも自己批判を重んじる(謙虚さと集団の和が重視される文化圏の)日本人は失敗(=self-esteemが下がること)を改善のための機会として活かすからだと結論付けられていました。

個人差はもちろんあると思いますが、帰国子女だった親友が「生きづらい……」と言っていたのは、何がアリでナシかというものの見方の尺度が文化によって違うからだったのだなぁと今さら彼女がかつて抱えていた苦悩が理解できたり。

オバマ元大統領は、自虐ネタを言ってもOK。

とはいえ先日アメリカの大御所コメディアン(長らく前述のトーク深夜番組『レイト・ショー』のホストでもあった)ディヴィッド・レターマンのトークショーをNetFlixで見ていると、ゲストの元オバマ大統領が自虐ネタで会場を沸かしていました。愛娘から預かった簡単な組み立てキットを何時間たっても完成させられない自分の無能ぶりについて話し、観客を笑わせていたのです。これは彼の今までの功績を受けて ”オバマ大統領が無能なはずがない“、”キットを組み立てるスキルは彼の分野外であり、彼の価値とは関係ない“、よって ”彼のself-esteemは低くない” という共通認識を視聴者が持つこととなり、アメリカ人が安心して笑える自虐ネタとなるわけです。

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またジョークを言うときの彼の姿勢を注意深く観察すると、胸を張って深々と椅子に腰掛けて堂々とした様子で発言し、どう見ても劣等感を持った人には見えません。しかもこの眼力!(笑)。

ウディ・アレンのジョークもこちらアメリカでは好みがわかれるのが事実。よくよく考えてみると、映画のなかでウディとやりあっている人は誰も笑っていませんね。”ウディ・アレンはすごい映画監督だ” という共通認識のもと、観客として映画を観ているから笑えるのです。

つまりユーモアのなかでも自虐ネタで笑いが取れるのは、こちらではある程度社会的に認められた人だという表れなのかもしれません。あとは、間違ってもウディ映画の主人公のように姿勢を丸めたりせず、自虐ネタはあえて “堂々と悠然とした” 様子で言い切ってしまう、というところでしょうか。聞いているアメリカ人が笑えるように安心させる必要があるのです。肩をすくめながら「宙ぶらりんな女」を満喫中の私はまだまだ、アメリカと日本、2つのユーモアチャンネルを使いわけるほうが無難なようです。

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SEE YOU!
バークレーは、もうすっかり春の陽気!

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