会社を辞めて、こうなった。【第50話】 研究機関・Greater Good Science Center エディトリアル研究アシスタントになる。

写真/文・土居彩 — 2017.5.25
紆余曲折を経て、渡米理由だったカリフォルニア大学バークレー校の校外研究機関『Greater Good Science Center』のエディトリアル研究アシスタントに。ひとり高齢な “学生アシスタント・インターン” として紛れ込み、最先端の幸福学・マインドフルネス研究論文のリサーチに明け暮れる日々ですが……。

【土居彩の会社を辞めて、サンフランシスコに住んだら、こうなった。】vol. 50

 

【第50話】研究機関・Greater Good Science Center エディトリアル研究アシスタントになる。

スクリーンショット 2017-05-19 11.14.05

みなさんこんにちは! そもそも私が会社を辞めてまでアメリカに来た理由は、インタビューをさせていただいた、映画『happy—幸せを探すあなたへ』のプロデューサー・清水ハン栄治さんのふとしたひとことでした。

「あ、そういえば。バークレーの先生がインターネットで無料の幸福心理学の授業を始めるみたいですよ」。

それは今から3年前のこと。チェックしてみると、The Science of Happiness(幸せの科学)というインターネット初の幸福心理学の授業でした。けれども、当時の私は英語が全然わからなかったのでちんぷんかんぷん。ただ、これから日本でも注目されるであろうテーマなこと。そして無料とはいっても、週ごとにテーマがわけられた8週間のプログラムは、動画、テキスト、試験などのコンテンツが充実し、整理されてあり、デザインも悪くない。編集者なので、そのあたりはわかりました。「よし、幸福学を学んで、この先生たちにインタビューしよう!」と思い立ち、まずは会社を辞めてサンフランシスコの語学学校へ。そして半年後、一般向けの講義をしていた先生とメチャクチャな英語を駆使しながら名刺交換をし、メールするもノーレス(たぶんこういう問い合わせがじゃんじゃん来るんでしょうね)。ビザも貯金も限りがある。落ち込んでいたところで仕方がないので、「バークレーに通って先生の生徒にならんとあかんわ」と一念発起。存在すら知らなかったTOEFLを死ぬ気で勉強して、たまたま当時バークレーが日本の大学と共同研究をしていて日本語がわかるアシスタントが必要だったという偶然も重なり、先生の研究室に潜り込むことができました。

Fake it till you make it!

IMG_1692

「ラッキーじゃん!」と、まぁ確かにそうなんですが。ここまで何の準備もせずに熱意のみで来てしまったこと、そして想像以上に分厚すぎた英語×心理学の壁によって、あろうことか私はビビってしまったワケです。意味不明な英語で意見するも「ハァ?」と眉をしかめ反応され続け(※決して相手に悪意があるわけではない。ただアメリカ人の表情筋の使い方が、日本人のそれに比べて激しすぎるだけ)、すっかり萎縮しまって押し黙る日々……。その結果、今まで意識することのなかった “日本人である自分” とも向き合うことになります。そんななか、意外にも助けになったのは心理学の勉強。教科書や論文を読んでいくうちに “個・自由・自律性・独立心” を重んじるアメリカ、そして “関係性・和・文脈” を重んじる日本。どちらが良い悪いではなく、単に “違うだけ” と知り、ずいぶんとラクになったからです。そこで、文化心理学について研究しているスタンフォード大学の研究室でボランティアとして働きながら学びたいとCV(履歴書)を送るも面接までいきつかない……。「私ってタダでもいらんか?」と、ガックリ。

いったい何が悪いのだとすがる思いでほかの生徒に頼み込み、彼女のCVを見せてもらうと、ハッタリかましまくり! なんとか賞とか経営学のマスターとか、いろいろとっているのね……。私のCVとカバーレター(CVに添える一段落程度の短い手紙)を見せると「アヤ、“自分にはこれができないから学びたい” とわかっていても、ネガティブなことをカバーレターには一切書かないのは常識!」とバッサリ。‘Fake it till you make it!(できるまで、できるフリをしなさい)’ という表現がありますが、アメリカってまさにその精神。まずはハッタリをかまして、それが現実になるまで走り続ける、というスピリットが根底にあります。そこで、CVや面接に関しては、日本人の ‘謙虚さ’ という美徳が裏目に出てしまうことも。さらには「あまりに今までやってきたことが違いすぎて、本気で応募している感じがしないわ」と、もうこてんぱん……。

「なんだなんだ、ファッション誌のマーケティング&広告営業がそんなに悪いんか! そもそも研究費がとれなきゃ、リサーチなんてできませんで! あとね、女性誌の編集者がやっていることって、ある意味キミらがやってる恋愛関係分析より、大衆浴場で覆面座談会を開いたり、浮気調査会社の探偵さんに同行したりと、よっぽどリアルに当事者の話を聞いて分析してまっせ!」と、難波の商人風に心中大声で叫んではみたものの、無意味なところで反抗してもムダ。「……だよね」。郷に入っては郷に従えということで、とりあえず自分の人生をアメリカで好まれそうな感じに編集してみることにしました。そしてCVとカバーレターが完成。どうせなら、まずは景気良く一番行きたかったところに応募してみるのがいいだろうと Greater Good Science Center に提出したら、ようやく面接に呼ばれたのです!

アメリカではキャリアゼロです。

IMG_2874

まず面接官は、私の大学卒業年度でビビるわけです。「このポジションを応募してくるわりにけっこう、歳くってるな……」と、笑。で、「今まで何をやってきましたか」と聞かれ、14年間の職務について簡単に説明。「あなたは、だいぶキャリアがあるようですが……。大学生とともに肩を並べ、研究アシスタント業務を行うことに抵抗はありませんか?」と聞かれたので、「アメリカではキャリアゼロです。私にとってすべてが勉強になります。どんな内容でもまず英会話な時点で、タダで英語が学べる」と言ったら、クスリと笑われました。そして興味がある研究分野について聞かれたので、「マインドフルネスです」と答えると、「あぁ、ちょうどそのアシスタントがこの間満了したところなの」と(ラッキー!)。「できればマインドフルネス以外でも幸福学に関連する研究内容、つまり感謝、社会的なつながりなどについて調べてももらいたいんだけど……」と言われたので、「あなたの記事をずっと読んできました。Greater Good(Greater Good Science Centerのインターネットマガジン。インフォメーションは以下参照)の中で一番好きです。研究についてわかりやすく端的に説明しながら、ハートが感じられるからです。そこで、私ができることがあればなんなりと」と答え、今年の3月からスタートすることになりました。

具体的な業務内容を説明しますと、毎週金曜日に出勤。カナダに住む編集者とSkypeを利用してミーティングを行い、そこで与えられた職務を翌週金曜日に提出するべく遂行します。業務は金曜日中には終わらないことが多く、終わらなければまた翌週続きをすれば良いと言われていますが、性格的に終わらせないと気持ちが悪いので、大抵あと2日ほどかけて翌木曜日までに提出するようにしています。インターンシップなので無給ですが、アメリカの生徒たちはこういう経験を経て、強いCV(履歴書)を作り上げているというワケです。私がアシスタントをしているのは、Greater Goodのスター編集ライター。彼女に対して、最新のマインドフルネス研究について月に一度リサーチ。それ以外にも毎週「幸せのために有益なユーモアとそうではないユーモアの違いについて。2012年以降の研究論文に絞ってリサーチしてみて」とか、「異文化間の恋愛のメリットって何かしら? なるべく新しい論文の中から20ほど興味深い研究を探して」といったミッションが与えられ、論文を探して読み漁るのです。で、その結果をワード文書にまとめてGoogleドキュメントで共有し、関連する論文はすべてダウンロードして共有フォルダにPDF保存。そこに彼女からのコメントがつき、それに返答していくという流れです。

しかし、この業務は日本人編集者として学ぶことが多いです。例えば先日も「犠牲的な恋愛関係のメリット、デメリットについて研究した論文データを調べて。これ、ものすごく人気があるテーマなの」とのミッションが。犠牲的な恋愛関係とは、小さなことで言えば「彼女が好きだから、私の好きな和食ではなくイタリアンに行こう」といったものから、大きなことだと「パートナーの転勤にともなって、会社を辞めてついていく」といったものなどをいいます。日本人である私にとって、アメリカ人は個人における損得バランスをシビアなほどに測るものだなと思っていたので、「この記事が人気あるってアメリカらしい!」と思いましたね。

さらに彼女の編集者としてのセンスも素晴らしい! 性格も素敵です。このあいだも数あるマインドフルネス研究論文の中から、「マインドフルな人は、行き先がはっきりしない不明瞭な人生にも心地よさを感じられる傾向が」という内容のものを「これおもしろいわね」とビビッときていました。「ダンナ、いい論文に目をつけましたね!」と思わず、心の中でガッツポーズ。

ただこの業務の難しい点は、バークレー校のWi-Fiにつながっていないと学術論文を無料ダウンロードできないこと。そこで自宅はおろか、バークレーに住んでいないと作業ができないということでしょうか。今の私は家主であったおばあさんの施設入居をきっかけにアメリカ帰国後、いったいどこに住むのか行き先もこの先の人生も不明瞭。バークレーで引き続き暮らすのか、それとも旅をしながら次の安住の地(あるのか?)を求めてアメリカを渡り歩くのか―。大学院受験にチャレンジするのか、全米におけるマインドフルネスプログラムを体験し、記事にしていくのか。はたまたその両方か。それとも全く予想外のウルトラハプニングが訪れるのか。と、いったんすべてが白紙状態となっています。彼女にはこの点すでに事情を説明しており、日本に居る現在も学術論文にアクセスしない範囲でのリサーチ作業を行っています。まさにマインドフルさがリアルに問われる事態! 彼女の記事が早く読みたいです……。

ギフトの世界と資本主義経済の心地よいバランスを探るサイトOur Giftismを始めました! よろしければ覗いていただけると嬉しいです。

See You!

IMG_3266

写真:Greater Good Science Centerのロゴ

写真:タトゥーハンズ
オークランドにあるデッドストックショップの店員さんの両手。そのクリエイティビティに「なんて素晴らしいの!」とハッピーな気持ちに。論文にもインスパイヤされるけど、こういうリアルなもののインパクトにはやっぱり敵わない。

写真:Café Strada
学校のすぐ真向かいにあるCafé Strada。Wi-Fi無料、充電可能。コーヒーとマフィンで税込み4ドル50セント。天気が良い日はテラス席へ。何時間居座っていても放置してくれる。と、作業するのにもってこいの場所です。

SEE YOU!
郷に入っては郷に従え…。

Information

Web magazine 『Greater Good』
2001年、カリフォルニア大学バークレー校心理学部教授のダチャ―・ケトナー博士が設立したGreater Good Science Center。バークレー校の校外研究機関として、心理学、社会学、神経科学の側面から人がより幸せになり、慈悲の心が溢れる社会を築くための研究・教育を行う。ケトナー博士はピクサー映画『インサイド・ヘッド(邦題)』を監修した感情研究の権威である。センターが出版するインターネットマガジン『Greater Good』ではマインドフルネスを始め、“思いやり” ”利他主義” “社会的な繋がり” などに関する最先端の幸福心理学研究について発信している。
http://greatergood.berkeley.edu



【これまでの「会社を辞めて、こうなった」】

【第1話】37歳で再スタートって、遅いですか?
【第2話】サンフランシスコ式クリスマスの過ごし方。
【第3話】まるでBar状態! サンフランシスコ図書館は、フレンドリーすぎ!!