志村 昌美

フツーの人生なんて退屈!『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』監督インタビュー!

2017.2.7
あなたはどんな子どもでしたか? そのとき描いていた “なりたい大人” になれていますか? そこで、歳を重ねているうちに誰もが失いがちな大切な気持ちを思い出させてくれるオススメの映画をご紹介します。世界50か所以上の子ども映画祭で数々の賞に輝くなど、子どもから大人まで幅広い支持を集めている作品とは……。

ちびっこスペクタクル映画の話題作『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』!

【映画、ときどき私】 vol. 71

ドイツのど真ん中にあるボラースドルフは、とにかく平凡であることが美徳の村。しかし、何もかもが平均的であるがゆえに、消費者調査会社によって新商品のマーケット・リサーチを行うモニター村にされてしまうのだった。その後、人体実験ともとれるような調査が始まり、お年寄りは老人ホームへと閉じ込められるはめに。

そこで、6人の4歳児と1匹のアカハナグマが “ハナグマ・ギャング団” を結成!

大好きなおじいちゃんとおばあちゃんを救出するため、フツーの村を特別にしようとトンデモナイ計画を立てるのだった。はたして、この村が迎える未来とは……?

常識では考えられないような奇想天外な展開が繰り広げられ、ハラハラドキドキ! そして、子どもたちとアカハナグマのかわいさにメロメロになってしまうのですが、その裏側を探るべく、ある方にお話をうかがってきました。

“ドイツの鬼才” といわれるファイト・ヘルマー監督に直撃インタビュー!

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今回は、映画で使用した小道具を監督自ら持参して取材に挑むほど、この作品への意気込みは十分! そこで、まずはこのユニークな物語が生まれたいきさつから聞いてみました。

この映画を制作することになったきっかけは?

監督 僕には息子がいるんですが、4歳になったときに母親と2人でパリに引っ越してしまったんです。それで、すごく寂しくなってしまったので、「息子のために映画を作ろう!」と思いつきました。

それまでは、息子を映画館に連れて行っても子供用の映画というとアニメしかなかったので、自分が子供のころに観ていたような本物の役者や動物が出てくる映画を観せたいと思ったんですよ。

では、どのようにしてストーリーを作り上げていったのですか?

監督 まずは息子に「何を観たい? 好きなものは?」と聞いたんです。答えは「ごみ収集車、消防自動車、飛行機、機関車、トラクター、それと船」でした。「でも、それで何をするの?」と聞いたら、「事故を起こす!」と彼は答えたんですよ(笑)。

とはいえ、僕はハリウッドの映画監督のようにたくさん予算があるわけではないので、大きな車の代わりに小さい車を買ったんです。それから、ベルリンには実際に湖を走っている大きな船がありますが、それと同じ形の船を小さく作って、それを壊したりもしました。

この作品で描きたかったものとは?

監督 「大人たちはみんな間抜けで、子どもたちは賢い」という映画を作りたかったんです。つまり、子どもたちはいろいろなアイディアを持っているということ。そして、その子どもたちを助けてくれるのは、おじいちゃんとおばあちゃんなんだということですね。

最後には、この村は本当に特別な村に変わりますが、そこでようやく親たちは、特別であることがどんなに素晴らしいことかというのを悟るんです。だからこの映画を観た子どもたちには、「たまには他人と違うのもいいことなんだ」というのを感じてもらえればと思っています。

ちなみに、監督はどんな子どもでしたか?

監督 僕は子どもの頃から映画を撮りたかったんですが、両親は子どもがしたいことを応援してくれるタイプだったので、「映画を撮りたい」と言ったらサポートしてくれました。だから、映画を撮るということは僕にとっては当たり前なことで、ほかのことはできないんですよ(笑)。

映画のなかで自分の経験を反映しているところは?

監督 どのシーンというのはありませんが、モチーフという意味では、僕の祖父母ですね。というのも、彼らは非常に個性が強い人たちで、一見厳しそうに見えるんですけど、心の大きな人たちだったんです。

昔はおじいちゃんおばあちゃんといったら、本当に年老いた感じでしたけど、同時に歳を重ねていることを誇りにもしていました。でも、いまは白髪になったら髪を染めたり、整形したりして、年を取っているのを見せないようにしますよね。

だから、この映画で老人役を探していたとき、みんな若作りしているので、80歳の女優さんにも「ちょっと若すぎてこの映画には使えません」と言ったくらいなんですよ(笑)。

子役たちは6人とも演技未経験だったそうですが決め手は?

監督 その話になると2時間は喋りたいくらいだよ(笑)。まずは、僕を信頼して子供を預けてくれる親の理解も必要でしたが、初対面のオジサンである僕といろいろないたずらをしたり、ナンセンスなことをしたりできる子どもを探していました。

具体的にはどんなオーディションをしたのですか?

監督 まずは学校に呼びかけたり、ラジオを通したりして募集をかけたところ、1000人以上の両親から連絡がありました。

オーディションは、幼稚園にいるような空間を作って行いましたが、最初は「こっちでリハーサルするから来てね」とただ呼びかけるというものでした。そうすると、1000人のうち300人の子が「ママが一緒じゃなきゃ行かない」って言ったんですよ。だから、その段階で700人に絞られました。

監督 そして、次はお皿を床に落として、「ほうれん草なんかいらない!」とわがままな感じで言って欲しいとお願いしたんです。そしたら、200人はお皿をちゃんと丁寧に床に置いてから、「ほうれん草はいりません」と言いました。これはしつけのいい子たちですが、僕の映画向きではなかったんです(笑)。

そのあとは、大きな声で歌を歌ってもらったり、グループになってダンスを踊ってもらったりしながら、それぞれの性格を見て、どんどんふるいにかけていったところ、この6人が残ったので、自然の選択だったともいえますね。

子どもたちを4歳児に設定した理由は?

監督 実は財務担当からは、「リスクが高いから4歳じゃなくて、6歳にしなさい」と言われました。でも、小さい子どもの方がかわいいですし、例えば6歳の子よりも4歳の子が車を運転する方がずっとおもしろいと思ったんです。

ただ、問題が発生したのは、警察とのやりとり。ドイツでは子どもの労働は一般的に禁じられているので、子どもの撮影となると、一日3時間しかできません。しかも、何時何分から始めて、何時何分に終了と時刻をちゃんと書いて申請しないといけないんです。警察も時々チェックしに来るので、「もし約束を守っていなかったら、監督を捕まえますよ」と言われたりして、撮影はとても難しかったですね。

子どもたちと同じくらいキュートなアカハナグマの撮影も大変だったのでは?

監督 僕がアカハナグマに初めて会ったときには、すでに1年間トレーニングを受けていたんです。この映画に出るためのトレーニングではなくて、一般的なトレーニングでしたが、いくつかの事はできる状態でした。

ただ、実は2シーンだけは僕がアカハナグマを演じたんです(笑)。といっても、ドリルを使って穴を開けたり、カッターで金属を切ったりする場面で僕がアカハナグマの手に扮しただけですけどね。そのほかはアカハナグマが実際にやっているんですよ!

そんな風にいつまでも想像力豊かでいられる秘訣は?

監督 いまは、放っておいても子供たちは自分でコンピューターを扱えるようになっている時代。だからこそ、教えないといけないことは、自分の手で何かをするということだと思います。そして、子どもも大人もメディアや映画に対して、すべて受け身にならないことです。

あと、情報もいろんなネットから何でも取り出せるようになっているけれど、もともとは人間が作ったものなのだということも忘れないで欲しいですね。なので、自分で何かを作ることを学ぶのが大事だと思います。

平凡になりがちな大人たちにメッセージをお願いします!

監督 「夢を実現するのに遅すぎるということは決してない」ということですね。そして、自分の中に子どもの要素が残っているということは悪いことではないので、大人になっても失われて欲しくないと思っています。

インタビューを終えてみて……。

体中からあふれるパワーには元気をもらい、とにかくお茶目な監督には映画同様に笑わせられっぱなし。撮影で実際に使用したというイチゴまでプレゼントしてもらい、何とも楽しい取材となりました!

フツーよりも自分にしかないものを追求することが大切!

周りと同じように平均的でいることで得られるものは、ある種の安心感。でも、人生においては、それぞれの個性が起こす “化学反応” が何よりもおもしろいというもの。大人になるほど、好奇心も薄れてフツーからなかなか抜け出せない人も多いけれど、この映画を観れば、「フツーってつまらない!」ときっと感じるはず。まずは、あなたもハナグマ・ギャング団の一員になってみては?

超ハッピーになれる予告編はこちら!

作品情報

『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』
2月11日(土・祝)より109シネマズ二子玉川ほか全国ロードショー
配給:エデン+ポニーキャニオン
© Veit Helmer Film-produktion

http://www.sekaideichiban.com/