志村 昌美

揺れる女心に共感! 話題の新作『ブルックリン』監督にインタビュー!

2016.6.28
新生活が始まってからはや3か月、まもなくひと区切りとなります。新しい世界へ飛び出せた喜びを感じている人もいれば、ホームシックになる人など、思いはさまざま。そんな誰もが一度は経験する、人生での旅立ちと少女から大人の女性へと変わっていく瞬間を見事に描いた名作といわれている映画とは……。

アカデミー賞でも主要3部門にノミネートされた注目作『ブルックリン』!

【映画、ときどき私】 vol. 40

街の食品店で働くエイリシュは、憧れの姉と母の3人でアイルランドに暮らしていた。口うるさい店主に嫌気が差していたものの、ほかに働く場所もなく、我慢を強いられる日々。しかし、姉が与えてくれたチャンスがエイリシュの人生を大きく変えることとなる。

それは、アメリカでの働き口を見つけることだった!

姉と母に別れを告げ、長い船旅を経てたどり着いたのは、ニューヨークのブルックリン。同郷の女性たちと寮生活をしながら高級デパートで働くことになったエイリシュだったが、ホームシックにかかり、アイルランドからの手紙を読んでは涙にくれる生活を送っていた。

しかし、ある男性との出会いにより笑顔と自信取り戻すことに!

それは、パーティで知り合ったイタリア系移民のトニー。エイリシュは、誠実で一途な彼に心を許し、いつしか洗練されたニューヨーカーへと変身していた。ところが、ある悲報が届き、アイルランドに戻らなければならなくなってしまう。久しぶりの故郷で彼女を待っていたのは、家族や友達との再会だけでなく、魅力的なジムの存在だった。2人の男性の間で揺れ動くエイリシュが選んだ未来とは……。

そこで、現在ロンドンにいるジョン・クローリー監督にインタビューを決行!

『BOY A』で高く評価され、映画のみならず舞台やテレビでも活躍しているアイルランドを代表する監督の1人。出版当時からこの映画の原作のファンだった監督のもとにオファーがきたときには、他の企画に入っていたため、実は一度断っていたという。
しかし、1年後にふたたび連絡が入ったとき、予定していた企画がうまく進まず、まるで運命に導かれるようにこの作品の制作に携わることに。本作へ込めた想いと見どころを語ってもらいました。

まず、この題材に惹かれた理由は?

監督 若い女性が成長していくという非常にシンプルな物語でありながら、普遍性があるので、大きなスケール感があると思いました。また、「自分の故郷から離されてしまった人や移民というのはどういうことなのか」という問題にも触れた物語でもあります。移民をひとくくりとして見るのではなく、それぞれ個々の人間として彼らへの思いやりを持てるようなきっかけになればいいなという思いもあったからです。

主演は、子役時代から日本でも人気の女優シアーシャ・ローナン。田舎の娘から都会の女性へと変わっていく様子を見事に演じ、アカデミー賞にもノミネートされた彼女は、実はニューヨーク生まれ、アイルランド育ち。エイリシュ同様に、どちらの土地にも縁がある彼女がこの役を演じることは宿命のように感じてしまうほど。

では、シアーシャと役作りについて具体的に話し合ったことは? 

監督 エイリシュの感情面においての “旅” がみせるスケール感を正確に描かなければいけないという話をよくしていました。というのも、この作品のなかでは、大きな事件があるわけではないので、「エモーションがどのように変化していくのかを伝えなければいいものにならない」と思っていたからです。

仕事をしはじめて気がついたこととしては、彼女はウィットを持ち合わせているけれど、いままでの出演作ではそれを演技に活かしきれていなかったということですね。今回は、ちょっとしたシーンのおかしみや皮肉を彼女が柔らかく表現してくれることによって、ユーモアが生まれました。センチメンタルにならずに1人の女性の魂をしっかりと見せてくれたと思います。

一方、女子として気になるのは、現在もっとも注目の若手俳優ドーナル・グリーソンとエモリー・コーエン。タイプは異なるものの、目が離せなくなる彼らをキャスティングした決め手についても聞いてみました。

本作のカギを握る2人の男性が放つ魅力とは?

監督 まず、ジムを演じたドーナルに関しては、舞台でも映画でも素晴らしかったので、以前から仕事をしたいという思いがずっとありました。第一候補だったんですけど、声をかけたらすぐにやりたいと言ってくれたんです。役者としては、あまり大きな役じゃないと思ったかもしれないけれど、彼にはそういうエゴはなく、ニュアンスの効いた演技で表現してくれましたね。

その反対に、トニーの配役には一番時間がかかったんです。リアルなアメリカ人の若い男性の俳優じゃなきゃいけないという思いもありましたが、男っぽいキャラでありながら、同時にすごく優しい魂を持っているトニーを見つけるために、たくさんの俳優と会いましたね。

監督 どちらも全く違うタイプだけれど、「それぞれに違った未来があるかもしれない」とエイリシュに見せてくれるような男性でなければいけないというのはありました。ジムの場合は知性的なレベルで彼女と合っていて、トニーの場合は彼女が歩く地面までも愛するようなキャラクター。でも、それくらいポジティブな魅力を持っていなければ、観客も感情移入できなかったんじゃないかなと思うんですよ。

私自身もエイリシュのように、1人で海外へ留学した経験が何度かあり、新生活への不安と喜びや置いてきた家族への後ろめたさなど、独り立ちを経験したことのある女子と同じように共感する部分が多くありましたが、監督も祖国アイルランドを離れて現在ロンドンに住んでいるとのこと。

本作にご自分の心境や経験を反映した部分はありましたか?

監督 もちろん自分の経験や感じていることも反映されていますし、それがこの企画に惹かれた理由でもあります。私は27歳のときにナショナルシアターの芝居の演出のためにロンドンに移ったんですけど、数か月経ったらホームシックになってしまったんです。いつかアイルランドを出るとずっと思っていたので、すごく自分でも驚きましたね。

ただ、後になってから自分だけじゃなく、誰しもが経験するもの普遍的なものなんだと気がつきました。故郷を離れると、自分と故郷との関係性も変わってきますが、自分自身も新天地での経験によって変えられるし、周りの人の見方も変わってしまうものなんですよね。

それでは最後に、公開を待ち望んでいる日本の観客にメッセージ!

監督 世界の観客たちと同じように、この作品を観たときに日本のみなさんも心が動かされたらいいなと思います。あとは、ウィットに富んでいる作品でもあるので、そのあたりも楽しんでもらいたいですね。

自分の未来は自分で決める!

誰もが人生において、選択を迫られるときがあるけれど、決断を下せるのは他でもなく自分自身。そして、それを乗り越えた人にだけ、“真の自分” を未来に見つけることができるはず。人生の岐路で悩んでいる女子たちは、エイリシュとともに次の一歩を踏み出してみては?

作品情報

『ブルックリン』
7月1日(金)、TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー
配給:20世紀フォックス映画
©2015 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

http://www.foxmovies-jp.com/brooklyn-movie/