志村 昌美

物忘れに幻覚、幻聴…誰にでも襲いかかる原因不明の病の正体とは?

2017.12.14
突然ですが、「まだまだ自分は若いから病気のことは気にしなくても大丈夫」と思っていませんか? そこで、誰にでも起こりうる原因不明の病に襲われた若い女性を描いた注目作をご紹介します。その作品とは……。

衝撃の実話を映画化した『彼女が目覚めるその日まで』!

【映画、ときどき私】 vol. 131

憧れていたニューヨーク・ポスト紙で働く21歳のスザンナ。1面を飾る記者になる夢へと着実に進みながら、ミュージシャンのスティーヴンとも付き合い始め、まさに仕事も恋も順風満帆だった。

ところが、突然物忘れがひどくなり、重要な取材でもまさかの大失態。次第に幻覚や幻聴にも悩まされ、全身がけいれんする激しい発作を起こしてついに入院することに。検査結果では「異状なし」と診断されるものの、症状が悪化して会話もできなくなったスザンナは、医師たちから精神科への転院をすすめられてしまう。しかし、スザンナの心の叫びを感じ取った両親と恋人だけは諦めなかった……。

本作は2012年に全米でベストセラーとなったノンフィクション『脳に棲む魔物』を映画化した作品ですが、その経緯を少しでも多くの人に知って欲しいという思いを抱えたある方にお話を聞いてきました。それは……。

原作者であるスザンナ・キャハランさん!

今回描かれているのは、おそらくほとんどの人が聞いたことのない「抗NMDA受容体脳炎」という急性脳炎のひとつといわれている病気。スザンナさんは世界で217番目の患者となり、7か月にわたる闘病生活を実際に経験されています。2007年になってようやく病名が付けられましたが、それまでは精神病や悪魔憑きと誤って診断されてきた可能性も指摘されている難しい病気なのです。

とはいえ、現在の日本でも年間1000人ほどが発症しているといわれているだけに、もはや他人事ではないこの病気について、克服した心境や発見に必要なことなどについて語ってもらいました。

まずは、映像として自分の物語を観たときはどう思いましたか?

スザンナ 自分の名前や出来事がスクリーン上で展開していて、最初は奇妙な感じたと思ったわ。でも、主演のクロエ(・グレース・モレッツ)がすごくいいお芝居をしてくれていて、私の経験したことを見事に再現してくれていたので、やっぱりすごく感動したわね。

そのなかでも特に印象に残っているシーンは?

スザンナ 私の病気を発見してくれたナジャー先生が「僕は君がそこにいるのをちゃんとわかっているからね」みたいなセリフを言うところがあるんだけど、それを見たときには泣いたわ。というのも、私はそのときは意識がなくて、リアルタイムで体験していなかったから、それが再現されるのを見たときにはすごく感動したの。

人生において一番辛い時期にもう一度自分で向き合いながら執筆するというのは、かなり苦しい作業だったはず。

本を書き上げるなかで自分を支えていたものとは?

スザンナ 一番のモチベーションになったのは、「この病気についての認識を広げていかないといけない」という目的意識。というのも、最初に書いた記事に対する反響が想像以上のものだったので、これは語らなければならないものであり、世の中にはそれを読みたいというニーズがあるんだということがわかったからなのよ。だから、熱にうなされるようにして、1年でいっきに本を書き上げたんだけど、もちろん挑戦的な作業ではあったわ。

でも、苦しいときに自分の支えとなったのは、これは世のためになっているという意識や一刻も早くこのストーリーをみなさんに開示して人々を救いたいという思いね。ただ、ここまでの世の中にインパクトを与えるものになるとは思っていなかったけれど、そういう使命感はあったわ。

病気になる前といまとで人生観や考え方が変わったと思うことはありますか?

スザンナ こういう病気をすると、「今日が人生最後の日であるかのように生きる」とか、「小さいことは気にしない」とか、そういう領域に達するのかなと思われがちなんだけど、全然そんなことはなくて、いまだに小さなことは気になるのよ(笑)。

ただ、自分が一番変わった部分はどこかというと、ある種の目的意識と情熱を持っていま生きていること。そして、この病気について語らなければならないという記者としての方向性も決定づけられたことかしら。それらは人の生死に関わるテーマだから、確かにそのほかのことがたいしたことないように感じられて、そういう意味では物事の見方は変わったかなとは思うわ。ただ、行列に誰かが割り込んできたら腹が立つし、そういうちっちゃいところはいまだにあるけどね(笑)。

映画を見ていると、家族や恋人など自分を支えてくれる存在がいかに大きいかを改めて感じさせられるもの。

その経験を経て、逆に自分が周りへの接し方や向き合い方に変化はありましたか?

スザンナ 変わったはずだと思うわ。というのも、まずは誰と時間を過ごしたいかというその相手を厳選するようにはなったわね。やっぱり自分が一番親しくしている人、信頼している人、愛している人に時間を費やしたいし、気にかけたいと思うようになったのよ。それと、自分が病気を経験したことによって、本当に周りが支えてくれたので、そういうみんなからも学んだわ。

実は数年前に父が交通事故にあって大けがをしたり、母も一時期がんを患ったりしていたんだけど、私が病気の間は両親がこういうふうに看病してくれたんだなというのを見習って、同じようにケアできるように意識するようになったの。そうやって自分の経験を通して、病気やけがをしている相手をどのように面倒を見ればいいのかわかってきたからそういうところは変わってきたわね。

今回、クロエ・グレース・モレッツがみせる迫真の演技は私たちによりリアルさを持って訴えかけ、この作品にとっても核となっているところ。

自身の役にクロエが決まったときはどう思いましたか?

スザンナ 数年前にちょうど映画化の企画が持ち上がっていたとき、オフブロードウェイの舞台でクロエのお芝居を初めて見たんだけど、そのとき一緒にいた友人に、「彼女の年齢がもう少し上なら、この役にぴったりだったのにね」って話していたの。だから、最終的にちょうどよく年月が経って、この役をやってくれたことは私もすごくうれしかったわ。

役作りでアドバイスしたことは?

スザンナ 最初はスカイプでやりとりしてたんだけど、クロエのお母さんが看護師さんということで、彼女は医療にまつわるいろんなディテールに興味があったのよ。だから、こちらからは私自身のビデオに録画された記録や医療上のいろんなカルテとかそういうものを送ったりしたわ。そうやって役作りをしてもらったんだけど、クロエは繊細で的を射た質問が多く、この病気を患うというのはどういうことなのか、というのを真摯に考えながらアプローチしてくれたわ 。

日本でもスザンナさんと同じ病気で苦しんだある女性の実話が、佐藤健さんと土屋太鳳さんの主演作『8年越しの花嫁』として映画化されたことが話題となっていますが、なんと偶然にもこの2作品は同日公開。それだけに、日本でもより多くの人が「抗NMDA受容体脳炎」へ関心を寄せることが期待されているところ。

そのことに対してどのように感じていますか?

スザンナ 10年前はこの病気のことを誰も知らなかったのに、ここにきてこの病気を患ったキャラクターを主人公にすえた大がかりな2本の映画が同時公開されるというのは私にとってはまるで信じられない気持ちよ! 

こんなふうに真摯に描いてくれる映画がでてきてくれるのは私にとってはうれしいことだし、医療界だけでなく一般の人たちにとっても認知を広げるという意味ではすごく力になると思うわ。それらが、「もしかしたらこの病気かもしれない」というひとつの気づきにもなるし、声高に訴えるひとつの力に繋がると期待しているところよ。

この病気は自分で発見することが難しい病気だけに、自分の家族や友人など、いかにお互いのことを気にかけられるかが大きなわかれ道。

最後にこの病気に早く気がつける注意点があれば教えてください。

スザンナ この病気の特徴を時系列的にあげるなら、最初は節々が痛かったり、倦怠感があったり、インフルエンザのような症状。それが進んでいくと態度や気分が急に変わったりしてきて、さらにエスカレートしていくと精神病のような状況になって、幻聴や幻覚が始まって暴力的なことを起こしたりするの。そして、硬直状態が続いて口もきけなくなったり、同じ動作を繰り返したりするのが主な症状なのよ。

あと、一番顕著なことのひとつとしては、突然の発作というのもあるわね。もちろん必ずしもみんなが同じ症状を見せるとは限らないけど、とにかくいままでに見たことのない態度を見せるときは気を付けたほうがいいと思うから、そのときはできれば検査を受けて欲しいわ。

インタビューを終えてみて……。

壮絶な経験をしてきたことが想像できないほど明るく、まるで女優のようにかわいらしいスザンナさん。自分の経験で多くの人を救いたいという強い思いがひしひしと伝わってくるのと同時に、その様子を隣で優しく見つめている旦那さんの存在の大きさも感じました。これからもジャーナリストとしてさらなる活躍を楽しみにしたいと思います。

自分を支えてくれる人との絆が生命を救う!

先が見えない暗闇に希望を生み出すことができた愛の力、そして諦めずに信じ続けてきた家族に起きた奇跡には、思わず込み上げてくるものがあるはず。いつ誰に襲いかかるかわからない病の現状を知るという意味においても、ひとりでも多くの人に観てもらいたい作品です。

感動を呼ぶ予告編はこちら!

作品情報

『彼女が目覚めるその日まで』
12月16日(土)より角川シネマ有楽町他全国ロードショー
配給:KADOKAWA
© 2016 On Fire Productions Inc.
http://kanojo-mezame.jp/