【12星座連載小説~牡羊座1話~】チャンスを手にした「女ディレクター」#1

文・脇田尚揮 — 2017.1.23
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していく物語
【12星座 女たちの人生】第1話 ~牡羊座-1~

12星座女たちの人生

私の中にはいつも「怒り」があった――――

新しい制作会社に越してきたのは、つい先月のこと。
私は竹内美恵(牡羊座/32歳)。最近ようやくディレクターに格上げされた、いわゆるテレビウーマンだ。小さい頃からテレビの向こうの華やかな世界に憧れ、熊本の大学を出てすぐに上京。ADとして業界に入った。

制作業界はいわゆる男社会で、私のような田舎出身のオンナADはパワハラ・セクハラの恰好の的。私も例外ではなかったが、うまいことかわしながらこの業界で生き延びてきた。

そして、気づけばもう三十路を軽く超えていた。だけど後悔はしていない。

今日は13時から打ち合わせの予定が入っている。私にとって初の大仕事になるかもしれないのだ。テラスから見える普段と何ら変わらぬ景色も、どこか清々しく見える。コンビニで買ったもので適当に昼を済ませ、自分のデスクに戻ろうとしたその時……

「よう、お疲れ」

木田さんだ。

『お疲れ様です!』

彼、木田武雄は私の上司に当たる男性で、今回私をディレクターに推薦してくれた人でもある。

「今日の打ち合わせの資料、ちゃんとできたか?」

こんなとき私はいつも決まってこう答える。

『はい!バッチリです!』

「そうか、ハハッ。頼もしいな。じゃ、また後でな」

ふ~、少し緊張した。あまり物怖じしない私だが、木田さんは他の男たちと違って何を考えているのかよく分からないから、なんとなくやりにくい。尊敬はしているのだけれど……。

ここが勝負どころ…!

正直、今回持っていく企画内容にあまり自信はない。でも、ずっとやりたいと思っていた“貧困女子”のドキュメンタリーを手がけられるかもしれない。ここは勝負どころと自分の勘が言っているのだ。

ネットカフェを漂流している女子や風俗産業で働いている女子にフォーカスして、働いても働いても貧困から抜け出せない社会構造について取材してみたいという思いが私にはあった。

私は学生時代から気が強く、男子とはいつも衝突してきた。九州という土地柄もあってか、女があまり前に出すぎると嫌われる環境だったためケンカもしょっちゅうだった。でも、女子からは比較的人気があったと自負している。特に後輩たちはよく懐いてくれていたと思う。

今回の企画も、私の学生時代の苦い経験がその土台になっている。昔の田舎での思い出にいつまでも執着しているなんて自分でも笑ってしまうが、私にとっては重要なことで“仇討ち”にも近いものなのだ。

「竹内、準備できたか?」

隣のデスクの同期・山岡侑士だ。

『できることはやったよ。後は当たって砕けろ、かな!』

「勢いだけで企画は通らねーぞ。ちゃんと視聴率取れる内容じゃないと、門前払いだからな」

この山岡という男、有名大学出身でとにかくデータ、データの計算人間。
私は男というだけで地位や権力を振りかざし、理不尽なことを女に押し付けるヤツが一番嫌いなのだが、こういう理詰めのタイプにはどこか耳を傾けてしまう。

『う~ん、そこはちょっと自信ない……』

「ま、頑張れ」

『サンキュ』

私は資料をまとめて、自分のデスクを後にした。

次回、“第2話 「今、明かされる私のキャリアの原点」”は1月24日(火)配信予定。

【今回の主役】
竹内美恵 牡羊座32歳 駆け出しディレクター
熊本県から状況し、都内でADとして下積みの後、最近ディレクターに。年下の男(吉井祐也・劇団員)と3年近く同棲をしている。
性格は姐御肌で面倒見がよく、思いついたらすぐ行動するタイプ。反面、深く物事を考えることが苦手でその場の勢いで物事を決めてしまうきらいがある。
かなりワガママだが、テレビ局内での信頼はあつい。

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脇田 尚揮(わきた なおき)/占い・心理テストクリエーター、小説家
鹿児島大学で心理学を学び、法律の世界に足を踏み入れた後、占い師になる。ライトなテーマからディープなものまで書き分けるスタイルには定評あり。著書に『大人の恋愛心理テスト』(双葉社)、『生まれた日はすべてを知っている』(河出書房新社)など。ほか、テレビ東京『なないろ日和!』にて、占いコーナーレギュラー担当を務める。